しましまぱんつ
ジャー…ゴポゴポ…
ぐるぐると流れる水が吸い込まれて行くのを確認して、京子はドアを開けた。
「ふあーすっきりした!!」
誰もいないトイレに響く声
朝から我慢してた尿意。
いつも朝はギリギリまで寝て、特に今日は3度寝ぐらいして起きたら朝礼始まる5分前。
勿論トイレなんか行く暇もなく髪はボサボサ寝癖のまま、服を着替えただけで家を飛び出して来たのである
何とか朝礼に間に合い、暇をみてはトイレに行こう行こうと思っていたのだが、こういう時に限って相次ぐトラブル
亡者が暴れ出し逃げようとするのを引っつかんで殴り飛ばしちぎっては投げちぎっては投げ…
やっとトイレに行けると思ったら今度は閻魔殿までのおつかいを先輩に命じられ…
もう膀胱破裂するわ!
と、一緒に閻魔殿に来ていた唐瓜と茄子に言い、状況を飲み込めずポカンとした二人に書類を押し付け京子はトイレに駆け込んだのであった
「るんるんるー」
やっと尿意から解放されご機嫌で手を洗っていると、トイレに入って来た女獄卒が怪訝そうな目でこちらを見て来た。
京子はそんな事はどこふく風で自分の着物で手を拭く
ハンカチなんて女の子らしい物は生憎持ち合わせていない
トイレを出て唐瓜と茄子を探して閻魔殿を歩いていると
なぜかすれ違う獄卒の視線を感じるような気がした。
視線だけではない、こちらを見てヒソヒソと話している
うーん 私ってそんな注目されるほど可愛かったかな…
ついに私の時代到来ってやつ!?
なんて自意識過剰な事を考えていると、後ろから肩をトントンと叩かれた。
何だろう、まさか告白?
なんてにまにま笑いながら振り向くアホ面は、肩を叩いてきた相手を見て一瞬にして氷った。
そこに立っていたのは泣く子も更に泣き出す、閻魔大王の第一補佐官様である。
「ほ、鬼灯様、」
やばい。
非常にやばい事になった
普通に考えて第一補佐官様が理由もなくこんな一端の獄卒に声を掛けるなんて事はあり得ない。
すれ違えばヒソヒソされるぐらいの絶世の美女であれば別だが生憎私はそこまでの容姿は持ち合わせてはいない。
何か理由あって私に声を掛けたのは確かで、現在思い当たる事があるとすれば…
(二人に押し付けた書類の事だ…)
文字通り仕事の鬼である鬼灯様は働く獄卒達にもとても厳しく、だらだらと仕事をしていた先輩達が金棒で殴られているのを何度か目にした事もある。
そんな鬼灯様の事だ、仕事を人に押し付けるような者は多分…いや絶対ぶっ殺される。
「ちょっとあなた…」
「ぎゃー!ごめんなさいぃいー!!!」
とりあえず一目散に逃げた。
あんな金棒で殴られちゃ一溜まりもない。
私はまだ死にたくない!
自慢じゃないが私の足は速いのだ。
廊下を歩く獄卒達の間を縫って走り角を2、3回曲がった所でチラリと後ろを振り返っても追い掛けて来る様子はなかった。
ほっと胸を撫で下ろし前を見ると、先程別れたばかりの見慣れた二人が歩いていた。
「唐瓜、茄子っ!」
「あっ、京子お前どこ行ってたんだよ」
「おしっこ漏れそうだったの」
「お前なぁ、女がおしっこなんて言うもんじゃないぞ…」
唐瓜がハァ、とため息を付く。
「京子のそーゆう所、昔から変わんないよなぁ」
茄子が二人のやり取りを見てケラケラと笑ってる。
「あれ、その書類まだ渡してなかったの?」
唐瓜が持っているのは、先ほど京子が押し付けた書類だった。
「あぁ、さっきお香さんにばったり会って喋ってたからまだ渡しに行ってないんだ」
それを聞いた京子はプゥと口を膨らませた。
「えー!いいな!私もお香さんに会いたかった!」
「お前もお香さんの色気を少しは分けてもらえよ」
「大きなお世話だーっ!」
ポカリと唐瓜の頭を叩くと、京子はプイと二人に背を向けた。
その瞬間、吹き出す唐瓜と茄子
「ちょっ、お前っ!」
唐瓜は顔を赤くさせ京子を見ている
「えっ、なになに!?」
「京子、パンツ丸見えだよ!」
茄子が少し慌てたように言うと、京子はえっ、とお尻に手をやる
すると着物の端がパンツに入り込んでいて、もうパンツ丸出しの状態になっていた。
「あ、本当だー!!うけるーっ!」
京子は特に気にする事もなくギャハハと笑いながらパンツから着物を出して身なりを軽く整えた。
「はぁ…お前って本当…」
本日何度目かの唐瓜のため息を聞いて、先輩からのおつかいを済ませるべく三人は歩き出した。
京子の頭の中から先程の鬼灯との出来事はすっぱり消えていたのである。
END
(あれ、だったら何で鬼灯様は私に声掛けてきたのかな?
もしかしてマジの私の時代到来!?)
(なにニヤニヤしてんだよ…)
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