少女の幸せとは

Step.8 まるで死刑宣告のように
奇跡の六つ子。彼らはそう呼ばれていた。
双子の姉妹であるトト子と二人きりだった世界に、同じ顔が6つ。初めて会ったのは近所の公園。
トト子と二人でブランコに乗ってたら、「代ーわってー!」って話しかけて来たのが始まりだった気がする。よく覚えてないけど。

「…ス…!」

突然仲間外れにされた私を庇うでもなく、トト子がかわいいからしょうがないわねと私を置いて六つ子達と遊び続けたトト子。
小さい頃はかわいいとかかわいくないとか関係なしに仲良くしていたのになあ。

「…る……ザ…!」

仲間外れにされる前の私は、多分六つ子の中の誰かが好きだったような気がする。思えば、仲間外れにされたのは思春期を迎えるであろう小学校高学年の時期で、人付き合いの中で外見も重視するようになったのかもしれない。その時期に、私が円の中から弾き出されたっていうだけで…。

「ええいとっとと起きるザンス!!!」
「あだっ!!」

痛みに跳ね起きた私の目に真っ先に飛び込んできたのは、頭上でハリセンを振り切ったポーズのイヤミさんだった。

「な、なに。いきなり叩くことないじゃん!」
「いつまで惰眠を貪るつもりザンス!働かざる者食うべからずという先人達の素晴らしいお言葉を知らないザンスか!?」
「働く…?って、あっ!!そういえば!!!」

突然六つ子と出会ってパニクって気絶したというにんとも情けない出来事を急に思い出して、ぼんやりしていた頭が覚醒した。

慌てて六つ子達の姿を探すが、幸いこの部屋にいるのはイヤミさんだけだった。
どうやら、医務室のような所に寝かされていたらしいけどもこの部屋すごく汚い。医務室なのに清潔感があまりない。

この建物は何なのか、私は何処に連れてこられてしまったのか、そして【働く】とは。一応私は働いているのだけれど…。

思考が何処かに行きかけた私を引き止めるべく?イヤミさんはついでとばかりに私の頭をもう一度、手に持っていたハリセンでスパァンッと小気味よく叩く。

「チミは今日から立派な社畜!という事で、しばらくはこのブラック工場で働いてもらうザンス。」
「え、やだなんで?帰る。帰らせて下さい」
「ムリムリザーンス。六つ子達と協力してノルマ達成しないとお家に帰すことは出来ませーん!」
「む、むつごと協力?…なんでそういういじわるなこというの…?」
「うっ、泣くほどイヤザンスか!?」

そうだ、泣くほど嫌なんだよ!!いきなりこんな汚い所に連れてこられて、他人も同然な幼馴染と協力して働かないと家に帰してもらえないとか普通の人なら泣いても可笑しくないと思うけど!!

イヤミさんは私が泣き出した事によって強気な態度を改め、オロオロと手を彷徨わせた。

「で、でも…チミの…いや、チミ達の為なんザンス!なまえ、六つ子とこのままで本当に良いと思ってるザンスか?また仲良くしたいってあの時泣いてたのは本音ザンショ?おそ松達だって、またなまえと仲良くしたいって思ってるハズ!…少しでも、頑張ってみようっていう気持ちはないザンスか?」

俯く私の肩に両手を乗せて、私と目を合わせるように覗き込んできたイヤミさんの顔は、いつものおどけた顔じゃなくて、あの時私の背を撫でてくれた顔と同じだった。私だって、仲良く出来るならしたいけど、でも。
関わりを絶ってからの何年もの壁は分厚くて、今更何をすればいいか分かんないし、どうせ私なんてトト子のおまけとしか思われてないし…

「難しいザンスか?」
「…」

だんまりを決め込む私に、とうとうしびれを切らしたのか、ハァァァ…と大きな溜息を吐いたイヤミさんは、サッと私から離れた。

「…いつもの八方美人は何処に行ったんザンショ。昔は出来てたなら今もやれるザンショ?しおらしいなまえは気持ち悪いザンス」
「…つまり、イヤミさんは私を家に帰す気はないってこと?」
「物分りのいいガキは好きザンス。駄々捏ねてないでさっさと働いて来るザンス!」
「ふふふ…上等。ノルマでもなんでもサクッとこなしてやるから!…帰ったら憶えてなさい、誘拐未遂で通報してやる…」
「それは勘弁してチョー!!」

やっぱりイヤミさんはすごい。いつもこんな風にしてれば今頃は上位層の人間になってるかもしれないのになあ。
六つ子と仲良くなんて多分無理だろうけど、これも家に帰るまでの辛抱だ。機嫌を損ねないように存分にゴマをすっておけば馬鹿な六つ子は騙されるだろう。良い子の仮面をつけて、私はイヤミさんの後ろに付いて歩く。医務室の外はどこもかしこも全体的に暗く、すれ違う人達もオーラが暗い。

ブラック工場って、そういう意味なのだろうか。
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