22 - Kanan's perspective - 「あ、あの……」 「え?」 商店街、人通りの多いそこで、私は一人のスーツを着た男性に声をかけた。 声をかけられた彼はいかつい強面の顔をしていて、あの時の男たちと重なった。 足が竦みそうになるが、後ろで見守ってくれてる凛と波音に、目をぎゅっと瞑って耐える。 「……どうしたんだい?」 男は訝しげに尋ねてきた。 周りを通り過ぎる人々も何しているのだろうという目でこちらをちらちらと見てくる。 当然だ。 街中で、いきなり女子高生がどこにでもいそうなサラリーマンの男に声をかけているのだから。 なんて恥ずかしい。こんなのさっさと終わらせよう! 「わ、私とっ!!」 「私と?」 「う……、わた、私と、あ、握手してあげてもいいのよ!?」 汗をだらだら流してそう叫んだ私は、息を切らして男を見た。 男はきょとんとしてこっちを見ている。 周りの連中も、何事かと驚いている。 「……ぷっ……ゆ、有名人かよっ……」 「か、佳南……、ふふっ……」 少しの沈黙の後、後ろで凛と波音が吹きだす声が聞こえて、顔がかっと真っ赤になった。 それでも凝視し続ける私に、男は、ああと頷いた。 男の手が、私の手を取る。 ぞくぞくっとした感覚を必死にこらえて、確かに手をつないだ。 おおっと、後ろの二人が感嘆するのがわかった。 手が離れると、男は首を傾げてこっちを見てきた。 それが何? とでも言いたそうな顔だ。 男の手が握れて、満足した私は何かが吹っ切れたみたいで清々しい気持ちでいっぱいだった。 ふふん、と上から見下すように見て、腕を組む。 お礼を言おうと思って、口を開いた。 「ありがとう、と言っておくわ」 「……お、お、お姫様かよ……っ」 「すっごい上から……っ……ふふっ」 また二人の吹き出す声が聞こえて、今度こそ振り返った。 「こっちは頑張ってるんだから、笑うなーーーーっ!!!」 走ってそっちへ向かうと、凛がやっべと言って走り出す。 波音もにこにこしながらそれに続いた。 「な、なんだったんだ……」 残された男は自分の手を見つめてぽつりと呟いた。 さあ、準備は整った。 * 「わぁ、すごーいっ!」 人通り溢れるその中で、私は周りを見渡しながら言った。 「まさか、佳南も遊園地来た事ないなんてね」 「遊園地なんて、馬鹿が集まるとこだと思ってたわ」 というか、友達なんて美沙しかいなかったから、誘われることもなかった。 真面目にそう呟くと、波音に呆れた顔をされた。 「で、でも、波音となら、楽しそう……っていうか」 恥ずかしくて顔を真っ赤にしながらぶつぶつと言うと、波音はくすっと笑った。 「それは嬉しいな」 「も、もう、面白がらないでよっ!」 「でも、もうそろそろあれを止めないとじゃない?」 波音が指さした方向を見る。 そこには数人の女性に囲まれた凛がいた。 服装はなんだがいつもよりずっとワイルドな格好で、彼によく似合っている……のだが、問題はそこではない。 いつも流している黒い髪を今日はツンと立たせるように決めており、横にはオレンジ色のメッシュ。 耳につけられた2つほどのイヤーカフと、首元に十字架のネックレス。そして腕にはじゃらじゃらとしたリング。 遊園地をどんな場所だと思ってきたのか、合コンに参加するかのような格好をしてきた彼は、同じようなお姉さん達に囲まれて逆ナンを受けている。 「な、なんであんな格好してんの?」 波音が少し引きながら見る。 私はそういう波音をじと目で見る。 「あんたも人のこと言えないけどね」 「え、そう?」 きょとんとしている波音の全身を見渡す。 栗色のウェーブしていた髪はストレートになり、顔はバッチリとしたメイク。 黒を基調としたその服装はいつもの波音とは正反対だ。 最初会った時は誰かと思った。 いつもが、可愛いという雰囲気だとするなら、今日は綺麗という感じだ。 「まあいつもは姉さんの真似してるだけだしね」 「ふーん」 「そういう佳南も、その服すっごいかわいいよ」 「あ、ありがとう」 私が着ている白いワンピースを見て言う。 こんな清純そうなのは、私は着たことがない。 「でも、恥ずかしいよ」 「何言ってるの! 佳南によく似合ってる」 「う、うん……」 このワンピースは佳南に選んでもらったのだ。 そうこうしてるうちに、凛がへとへとになった様子で帰ってきた。 「二人とも、話してないで助けてくれない?」 「そう言って、満更でもなさそうだったじゃない」 ツンと顔を背けると、凛はくすっと笑った。 「何? 妬いてんの?」 「だ、誰がっ!!」 「ちょっとー、いちゃついてないで、早く行くよーーっ! やっぱり夏休みだからすっごい混んでる!!」 先を行く波音にそう言われて、顔がかっと赤くなる。 「佳南? 顔赤いよ?」 「あんたはうるさいのよっ!!」 ばしっと凛を叩くと、彼は楽しそうに笑った。 |