2番目に大切な




双子の兄、海棠晴がカナダから連れてきたチビッ子はわたしたち海棠家の末っ子になった。これでようやく、晴のかねてからの願いであった、『家族みんなで暮らす』が達成されたわけだが、わたしは素直に喜ぶこともできず、新しい家も落ち着かないまま、イライラする日が続いている。


「あれ空、今日は仕事ねえんだ」


今のように家族全員で暮らす前、それぞれがそれぞれの場所でそれぞれの生活をしていた頃…つまり、晴がホストをしていて、まだ末っ子の零がカナダから日本にやって来たばかりの頃、わたしは銀座の高級クラブでホステスをしていた。双子そろって同じ仕事かよ、と弟の亜樹に嫌味を言われたこともある。晴がホストをやめ、飲食業を始めるとなったときに、晴から直接、まだ未成年の弟にもなにかとよくない、という理由で出勤する日を減らせと言われた。


「どっかの誰かさんが出勤減らせっていうからでしょ」

「あ、そっか。でもどうせおまえの客なら、おまえいなくても毎日のように来るだろうな」

「おかげさまで、給料は変わってませんけど」


わたしと同じ母親譲りの整った顔、色素の薄い髪、普通の日本人じゃまずありえない、変わった色をした瞳。ひとつだけ違うのは、わたしは女で晴は男ということ。


「ん、空、なんか怒ってる?」

「別に。あんたは寝なくていいの?」

「や、明日の零の弁当の用意してた」

「……そう」


十七歳の夏、晴は母さんから連絡を受けてカナダに行った。そこでなにがあったのかはわたしは知らない。帰国して、家に向かう途中で事故に遭い、そうして五年経った頃、突如としてそのチビッ子はやって来たという。海棠家の『五人目』として。


「なー聞いてくれよ!零がさぁ…」

「はいはい、よかったですネ。オニーチャン」

「…そーゆう空はオネーチャンだろ」

「    」


晴が、零のことをどれだけ大事にしてるかなんて、すでに分かりきっていること。わたしや四歳離れた双子たちだって分かってる。それどころか、晴の中の零は『そういうコト』の対象にさえなってしまっている。それは零も同じこと。わたしよりも、弟たちよりも、晴の中での一番はいつだって零のポジションだ。それなのに、この男はいつだって、誰にでもいい顔をする。無意識のうちに張り付けられた笑顔が気持ち悪いとさえ思ったことだってあった。


「(…バカなんだか、計算高いんだか)」


そんな兄をおかしいと思う反面、たいがい自分もどうかしてると思う。弟たちとは違って、父親も母親も同じで、同じ容姿なのに、わたし以上にキラキラしている晴に対して、わたしはいつからか恋心を抱くようになっていた。きっと初恋だったと思う。よりによって、初恋の相手は血を分けた双子の兄、しかも、末の弟にアレを勃たせる男なんかを好きになってしまった。どう足掻いたって叶うはずの恋だ。それでもわたしは愛する男、だという理由だけで、今まで晴のいうことを聞いてきた。兄弟みんなで暮らそうって提案をされたときも、店への出勤日を減らせと言われたのだって、晴が言ったから従ったんだ。他の人間に言われたのだったら、絶対に聞いてなんかいなかった。たとえそれが、わたしたちを産んだ実の母親だったとしても、だ。


「空、ありがとな」

「なにが」

「零のこと、理解してくれて。俺、絶対に空を説得できねぇって思ってたから」

「…そりゃ、あんだけラブラブっぷり見せつけられたらねー」

「分かるかっ!?もう零すっげぇかわいいんだよ!今日だってな…」

「付き合ってられないから、わたしもう寝るわね」


熱くなってテンションの上がる晴を置いて、わたしは自室へと戻った。ドアをしめた途端、頬の上をなにか温かいものが流れて行くのを感じた。


「…んで、涙なんか」


もしも仮に、わたしが晴と血を分けた兄妹じゃなかったとしても、わたしは零には敵わない。わたしの一番は昔からずっと晴なのに、晴の一番はいつからかわたしじゃなくて零になった。きっとわたしの初恋は叶わない。いつまでも、こんな惨めな思いをしていかなくちゃならないんだろう。




2
(迷信じゃなかった)

河童さま主催「されど彼は」へ提出


 




main 




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -