君を見続けて変わったこと

やっぱり、一番好きで心から大切だと思える人とは同じ気持ちでいたい。その人の持つ恋心を自分がひとりじめしてたい。これは簡単なようでなかなかうまくいかないこと。でも一瞬のタイミングでうまくいってしまうような、そんなもの。


「ねえ」


ほんとにそう思うのよ。だからうまくいく、思い通りになれって唱えながら接したり思い描いたりしてはいるけど、内心は不安なんだよ。だって彼の心にいるのはわたしじゃないから。


「いっそのこと別れようって何度も言おうと思ったの。でも…なんだかできない。だれをすきでもいいからそばにいたいって思うの。ばかかな」
「……そんなことないじゃろ」
「そうかな?わたしはわたしと同じ立場の仁王を、ばかだと思うけど」
「自分のことはばかだと思う。でも他人の想いを無下になんて、できない」


ふーん、とだけ返して、わたしは寒空の下で冷たい空気をまとった。なんだかいまの仁王の発言にむかついたのだ。そんな生易しい「思いやり」を持つから、わたしがいつまで経っても仁王への好きという気持ちが断ち切れないのだ。
そうやって、何年も彼の想う人をわかりながらも待ち続けるわたしを、断ち切れないから。中途半端にやさしくするから。仁王は自分とわたしを重ねるから。
だからいつまでもこんな状態なんだよ。


「蓮くんがすきならそれでいいじゃない。なんでわたしを彼女になんてして、遠ざけるの。…よりによって蓮くんの幼なじみのわたしを」


こんなこと聞かなくたってわかってる。理由なんて、仁王にわたしは利用されているだけなんだと、とっくにわかってる。
蓮くんと幼なじみのわたしと付き合うことで、恋愛対象としては遠ざかるものの友人としては近づく。話す機会も蓮くんから声をかけられることも格段に増える。蓮くんがわたしを好きなら、なおさらに。


「柳は恨んでるかの…」
「仁王が蓮くんを好きで、蓮くんに近づくためにわたしと付き合ってるなんて言わなければだいじょうぶなんじゃないの」
「…ああ」
「少なくとも、仁王がだれを好きだろうとわたしと付き合う理由がなんであろうと関係ないって言えるくらいには、わたし自身が仁王を好きだし」
「……ごめん、な」
「いいよ。蓮くんはわたしが仁王を好きで、それで付き合ってるならきっと良しとするから」
「結局俺は空には勝てんな」


苦笑した仁王の横顔に、きゅうっと心が締め付けられる感触がした。かじかんで行き場のなかった右手で、形の良く長い指先を持つ彼の左手を絡めとった。恋人つなぎ。きゅっと力を入れてくれたのは、きっと仁王がいまつらいからだろう。
たぶん…一番ばかなのはわたしなんだろうな。自分で追い詰めておきながら、仁王の苦しそうな顔を見ると悲しくなる。そしてそんな顔をしないでほしいと思うのだから。


「俺たちが付き合って、柳のことを好きになってもう三年になるの」
「中三からだから、そうだね」
「いろいろ苦しめたし苦しめられたし、俺が柳を好きなことでたくさんケンカもしたな」


突然昔話をした仁王を不思議に思って見上げる。穏やかな横顔に、性懲りもなくときめいてしまうんだよなぁ。


「だって仁王があんまりにもうじうじするから」
「そりゃうじうじもするじゃろ。同じ男を好きになって、好きな男の大切な女の子と付き合ってるんじゃから」
「わたしは仁王が蓮くんのこと好きなの知ってて好きだし付き合ってるけど」
「空は特殊」


くっくっと楽しそうに笑う仁王は、とても好き。付き合いたての頃はいつもわたしに申し訳ない顔しながら蓮くんへの罪悪感に苦しんで、あんまり仁王は笑わなかった。でも仁王のつらさとか不満とか全部聞いて、わたしも自分の思ってることを全部ぶちまけて、彼がつらいときは必ずそばにいて。そうしたら付き合って一年と少しが経った頃にやっと自然に笑ってくれるようになったんだっけ。
それまでは微笑みよりつらそうに耐える表情や泣いてる顔しか見なかったから、すごくすごく嬉しかった。
それと同時に「すごく大切。守ろう、彼自身の支えになろう。いっしょに笑顔で生きてけるように」と強く思った。


「特殊なわたしと一緒にいるおかげで前向きに考えれるようになったでしょ?」


わたしは、仁王を変えたい。
恋はきっと、仁王が感じてるものより輝かしいものだと思うんだ。
だって蓮くんをすきな仁王の彼女のわたしは、仁王の笑顔を見ると笑顔になれるし幸せだから。


「…そうじゃね。なんだか、空といっしょにいるようになって、気持ちが穏やかになった」


あたたかい目で微笑む仁王に、照れる気持ちを抑えて満面の笑顔で返した。


「これからもいっしょにいてあげようじゃないか、仁王くん」
「お願いします、殿下」


こんな風に、ノリも息が合うようになった。
もっともっとわたしがあなたをしあわせに変えてあげる。




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