近づいたところで、意味も無い



彼女は、そんなことをして虚しくないのだろうか、とよく思う。

苗字名前は俺の一つ上の先輩で、霧野先輩の恋人だ。二人は付き合い始めて日が浅い。

日は浅いが、誰が見ても二人は仲の良いカップルだ。そう見える。そう見えるようにしむけている。誰がって、苗字先輩が。

二人を見守る人間は皆揃って、「仲良くて羨ましい。」なんて言う。だけど、俺はそう思わない。苗字先輩は可哀想な人だ。そして、霧野先輩は最低な人だ。俺は、苗字先輩に酷く同情する。




「あたしのこと、好き?」


部活の帰宅途中。霧野先輩とその彼女である苗字先輩を見かけた。俺は二人と帰る方向が同じだから、よく遭遇することがあるため、こういうことには慣れている。


「好きだよ。」


慣れてしまったんだ。一気に冷える頭も、ギシリと軋む胸も、彼女を可哀想だなって思うことにも。こんなことに慣れたくなんかなかった。


「そっか。」


苗字先輩は後ろにいた俺に気付いていたようでチラリと俺を見た。俺は今、間違いなく苦い顔をしているだろう。霧野先輩の手前だから、苗字先輩は表情を取り繕っているが、心境はきっと同じ。

彼女と俺は、同じ、可哀想な人。

ただ、そう思ってなにもしない俺は、可哀想な人間で、霧野先輩と同じ、最低な人間だ。

はぁと吐き出した白い息はもやもやと前方をぼかす。それに腹が立って、俺は右手でかき消すように振り払った。




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