恋人同士に見られた日

あの時クラスに転校生だった田沼要くんが入ってきたのを見て、わたしは大人しいけれど結構カッコイイ男の子だなあ程度にしか思っていなかった。そういえば田沼くんよりも早く友達のクラスにも夏目貴志くんという影のある儚げ美人な男の子が転校生としてきたらしい。お互い転入してきたのもあってか気が合ったのか知らないけれど二人はどんどん仲良くなっていて、いつしか田沼くんの夏目くんに対する視線が変わっていった気がした。多軌さん達もたまに一緒にいるようになっていたけれど、目の色というか熱っぽい視線を隠しながら送っているのは彼だった。わたしもクラスメイトとしてだけど田沼くんと会話していく内に距離が縮まる度に、もしかしたらと思うものが密かに確信に変わっていく。

「あのさあ、変なこと聞いていい?」
「なに」
「もしかして田沼くんってさ」
「うん?」
「夏目くんのこと好きなの」

敢えてハテナを付けないで言ってみると「…さあ」なんてちょっと躊躇していたけれど笑ったから、そうと頷いて「誰も気付かないと思うけど彼相手だと目の色がちょっと違うから気をつけた方がいいよ」彼に習って小さくにこりとする。形のいい眉をくっと「え、肯定してないけど」と呟いて寄せるから思わず、ふふんと笑う。多分わたしは早口で「わたしのお姉ちゃんは同性の女の子と付き合うこともあるらしいし今は彼女がいるって聞いたりしてるからこれでも耐性は付いてるの」とか「それ誰かに言い触らすつもりとかも全然ないから安心してね」なんて言っていて、田沼くんはさぞかしどうでもよさ気に「ふうん」と言った。





最初にわたしが問うてからしばらくする内に開き直りみたくいつだってわたしに夏目くんのことを投げ掛けてくるから「報われなくたって人に恋をしたのは変わりないでしょう」なんて前にぴしゃりと言ったことを思い出した。わたしが自分で言った言葉はそのまま自分に返ってきて、それを思い出して「どうかした?」と突然むつりと黙ったからか田沼くんは眉を潜める。きっと同性に恋する彼も、その田沼くんにいつのまにか心が動いていたわたしも報われない。小さく首を竦めて「なんでもないよ」と普通を装って返答すれば「そっか、ならいいけど」なんてまた飽きもせず夏目くんのことを連ねるからなんで気づかないのと、なんで夏目くんなのと内心がっくり膝をつく。

空き教室でちょうど田沼くんと二人で雑談をしていたら、辺りを見回していた夏目くんがわたし達に気づいて一緒にいた名前は忘れてたけれど確かに同じ学年だった男の子達が先に行っててかなんかと促していた。田沼くんといくつか言葉を交わした彼がわたしの方を振り返る。夏目くんは「ああ、俺ね君のことわかるよ。幾原さんでしょう」と言うから「…そう。わたしも君のことわかるよ、夏目くんだよね」なんて言っていればチャイムが鳴った。わあと「知ってるんだ?そうだよね、田沼くんの彼女だもんね」とだけ最後に納得したように笑って呟くから勘違いだと否定する間もなく次が移動教室らしい彼は慌てて出て行く。彼女だと誤解されるのは惨めな気持ちになった。田沼くんが自分を恋愛対称で好きなのだと知らないから言っているのだとわかってはいても嫌味かとつい押し黙る。





あれから五年は経っただろうか。田沼くんはわたしの恋愛という恋の枠からは外れて、夏目くんに恋していた彼も同じだった。わたしが勝手に抱いていたそれがなくなって元クラスメイトで真っさらな友人に初めてなったのだ。わたしはきっと、いや絶対に君に三年以上の恋心を抱いていたんだよとは告げることはない。夏目くんとはあることがあってわりかし仲良くなった。わたしは妖が見えるけれど多分、妖には嫌われている。ああ、今はもう夏目くんに劣等感に似たものを抱くことはない。田沼くんに淡く恋していたのは過去だ。




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