君の全てを許すことが出来ない
昔から他人より近くにいることを許されていた。だから私は遼の隣にいるのが当たり前だと思い続けたかったけど、それは崩れている途中だ。それは昔、ある人が幼い私たちの前に現れた時から始まっていたのかもしれない。
目の前でお酒を飲んでる遼がもしもサッカーを好きじゃなかったら、私たちはあの人に出会うことはなかったし、遼も私もお互いに隠し事をする必要がなかったはずだ。だから私はこの現状を嫌って、遼がサッカーを好きじゃなかったら良かったのに、なんて偶に思ってしまう悪い奴だ。でもサッカーしてない遼は遼じゃない。
「好きなんでしょ」 「別に好きじゃねえよ」 「嘘吐かなくていいよ」
「だって幼なじみじゃない」 「世話の掛かる妹だな」 「私がお姉ちゃんだよ」 「どっちだろうとお前とは家族同然だろ」 「じゃあ本当のこと言って」 「さっき言ったのが答え、あの人にもそう言うつもりだ」
そんなやり取りをしてから一時間弱が経過、私は遼が弱いのを知っていて黙って飲み続けさせた。遼にとっては自棄酒でも私にとっては彼に本音を言わせるためだったから。だから私は顔が赤くなり話し方もいつもより気の抜けた遼を見て、もう一度言う。
「嘘吐かなくていいよ」 「…すきなんだよ」 「うん」 「だからすきだっていわれたとき、うれしかった」
「おれ、たんさんがすきだ」 「うん、お膳立てくらいはしてあげるからがんばれ遼」
それを聞いた彼は酒に溺れて目を閉じた。あの人の声なんて聞きたくないけど遼のためだから仕方ない、そう思い電話を掛ける。きっと敵意を剥き出しにされるだろう。
「もしもし丹波さーん」 「なんだよ」 「私が遼くんの幼なじみだからってそんな不機嫌にならないでくださいよ」
「私と遼くんはそんなんじゃないんで」 「知ってる、悪かった」 「いいえ」
今はこうやって私を敵視している丹波さんも昔は私のことも可愛がってくれてた。態度が変わったのがいつだったか忘れたけど、多分それが彼が遼を好きだと自覚した合図だったんだろう。
私が遼の幼なじみだから彼が嫉妬し、私と丹波さんの関係はギスギスしている。ただ私たちはそれを遼やそれ以外の人物に見せることはない。同族嫌悪というのが相応しい、そんな彼に私からのささやかな嫌がらせをしよう。
「でもまあ…遼くんは預かってますよ」 「なに言ってんだよ」 「貴方の大好きな赤崎くんは私の隣で寝ています」 「お前、ふざけてんの?」 「だからはやく迎えにきてあげてください」 「……わかった」 「今なら多分、素直になりますよ、遼は」 「今から行くからお前そこにいろよ」 「はやく来ないとかわいい幼なじみは渡しませんから」
電話を切って、遼の髪に触れる。こんな顔して一体何の夢を見てるんだろう、そこに私は居ないのだろうけど。だからこれから吐く言葉をどうか聞かなかったことにしてほしい。
「私は遼が許せないよ」
隣に居させてくれないこと、家族だったらなんて言って私にもそう思わせること、丹波さんを変えてしまったこと、丹波さんと同じ気持ちになっちゃった君のこと、本当はずっと責めたかった。
いつからかこんな事しか考えられず、何から何まで彼を否定してしまう悪い私が大嫌いになった。でもそれは全て可愛い君のせいなんだよ。
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