傷つくのはいつだって君
人間(ひと)を愛することは容易いが、人間(ひと)を愛し続けることは難しい。又、その人間(ひと)と想い合うことは更に難しい。それは当たり前のことで、将来を誓いあう様な幸せな時間(とき)がやって来ることは誰にでも有る訳ではない。この広い世界に未だ私が見たことのない景色が有って、会ったことも話したこともない人間(ひと)が山と言う程に居るというのだから。
愛されなかったということは生きなかったことと同義である。
こんな言葉が、この世に存在している。誰がそんな言葉を言ったのかなんて私が知っているはずもなく、寧ろそれが正解だと思ってしまう。 だって現に、私はこれっぽっちも彼に愛されていないし、この死んでも生き返る街に住んでる為に死ぬことに対しての恐怖がすっぽりと消え去り、生きていることに対して不安を感じてしまっているから。
「ねえリフティ、」
「…何だよ」
「私達、もうさよならをしない?」
この下らない恋人ごっこの関係を断ち切るに相応しい言葉をぽつりと呟けば、私の上に跨がり先程から此方をずっと見下ろしてくる彼が一瞬目を見開いた気がした。彼の瞳は私をしっかり捉えていて、何を言い出すんだと言わんばかりに首を締め付けてくる。けどその締め付けは彼らしくない、傷口に触れるような優しい手つきであった。
「私はリフティが好きだよ、愛してる。けどリフティは、私のことなんて何とも思っていないんだから」
「な、に言って……」
「知ってるんだよ、全部。リフティは私なんかに興味は無いの。リフティが興味有るのは、リフティのお兄さんなんでしょ?」
この街に来たときから、私はずっと彼を見てきた。だから分かる。彼は兄を神を崇拝する様に酷く尊敬し、恋する乙女みたいに慕っているってことを。でも兄は、彼の気持ちを利用して自分の欲を満たしている。彼は只の性欲処理であり、生き延びて手に入れた金や宝を自分の物にする為の"駒"でしかないのだ。
「………、」
「それに私、この街を出ていくから」
「…え…」
泥棒である彼はこの街の住人達から信用をされず下衆な物を見る目で見られ、ただ一人の家族にとって彼は"駒"でしかない。そんな彼に私は惹かれた。でも所詮、私の恋は最後まで叶うことは無い。それは彼も同じ。愛した人間(ひと)と想い合うことは、難しいのだ。
「お兄さんと、幸せになってね」
これが私と彼の最後の言葉。けど彼にとっては、それはとても不快なものだろう。叶うはずもないと分かりきっているのだから。私がこの街から去っても、何も変わりはしない。只、唯一変わるのは、もう二度と彼は人間(ひと)から愛されるなんてことは無いということ。
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