弦より:意識しちゃってください 1
海賊団の一員として海の上を進むのも嫌いじゃない。むしろ、大好きだ。だけど、それでもやっぱり。たまに上陸する島の、踏みしめる大地の感覚。海上では見られない、賑やかな町並み。その全てが新鮮で、いつも楽しい。

そんなことを思いながら、桜はうきうきとした足取りで街を歩いた。

淡い桃色のワンピースがふわりふわりと風に揺れる。ローが買ってくれたシルバーのミュールがきらきらと煌めいているのが嬉しくて、桜は何度も足元を見ては微笑んだ。

別に、何を買いたいわけでもない。ローはいつも、島に上陸すると、好きなものを買うようにと言って沢山のお金を渡してくれるが、生活必需品以外の用途にそれを使ったこともない。

ただ、ぶらりと歩いてみるだけ。素敵な洋服やバッグが飾られているショーウィンドウも、覗くだけ。船から降りて、自分の足でうろうろと。その時間が、桜は好きだった。

ローも一緒なら、もっとすてきなのに。

うっかりそう思ってしまって、慌ててぶんぶんと首を振った。

そもそも彼は、外を歩くのが好きではない。遊園地で遊び回るよりは、屋根のある場所でゆったりと本を読むことの方が好きな人だ。

そんな彼の邪魔をしたくはない。桜の思いは、ひとえにそれだけ。

てくてくと歩き続けていると、ふいに曲がり角で人とぶつかってしまった。


「あいて」
「あ!!ご、ごめんなさい!!」


慌てて顔を上げると、そこには美しい金髪に青い瞳をして、すらりと背の高い、まるで童話の中の王子様のような青年の姿があった。


「はは、大丈夫だよ。君の方こそ、平気だった?」
「あ、私は、大丈夫」
「それは良かった。悪かったね、考え事してたらつい、ぼーっとしてた」
「いいえ、私こそ」


見た目の良さばかりでなく、彼は何とも人当たりのいい男だった。どこぞの万年隈を彫り込んだお兄さんとはまるで逆だ、と思う。

否、顔の美しさならばローとて負けてはいない。しかし、何と言うべきか。目の前の青年が『陽』ならば、ローは、『陰』。

そんな大概失礼なことを考えていると、目の前の彼が口を開いた。


「そうだ!!おれ、これからお茶しようと思ってたんだ。ここで会ったのも何かの縁だしさ、一緒にどう?奢るよ」
「え、でも…」
「大丈夫、ちゃんと手持ちはあるよ?」
「あ、じゃあ…」
「よし!!決まりだな!!」


にかっと笑ってみせた彼の表情はまさに快活そのもので、やはり太陽のような人だと、桜は思った。
[ 2/5 ]

[*prev] [next#]
戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -