5万hit企画 | ナノ


▽ 同じ頬の色。


「こーたー!一緒に帰ろー!ってあれ…?」


今日の授業、HRと全て終わりあとは帰るだけとなった私はいつものようにFクラスへと足を踏み入れたが、そこには土屋康太の姿は無かった。
あ、もしかして、写真を撮りに女の子を追いかけているのかな。まあ、いつものことだから特に気にしないけど。


「あ、月乃ちゃん。こんにちは」


私がつっ立って居ると背後から可愛らしい声が聞こえてきて振り向く。1年の時に同じクラスだった姫路瑞希ちゃん。私の知っている子の中で"女の子"という単語が一番似合うのは彼女だろう。


「こんにちは。ねえ、康太知らない?」

「土屋君ですか?今日はお休みしています」

「え、休み?」


パチパチと瞬きをする私。なんとかは風邪を引かないってウソだったんだ、と思った瞬間だった。
康太が風邪引くだなんて珍しい。17年間幼馴染してきたけど、年に1回引くか引かないかぐらいだし。…まあ、風邪引いたら引いたで商売が出来ないしね。前に「…………俺を待っている人が居る」みたいなこと言っていたし。俺をっていうか商品の方だと思うけど。
あ、そうだ、と何かを思い出したかのように瑞希ちゃんは持っていたノート類の間からプリントを抜き出した。


「これを土屋君に届けてくれませんか?」


そしてそれを私に差し出した。
なんだろ、このプリント、と思いながら受け取ると、"補習のお知らせ"と書かれていた。


「あー、なるほどね。補習、か」

「はい。土屋君が学校に来てから渡しても良かったのですが、丁度月乃ちゃんに出会ったので」

「え?」


私に出会ったから?え、どういうこと?
プリントを両手で持ってキョトンとする私に、瑞希ちゃんは「あれ?」っと言った様子。


「お見舞い、行かないんですか?」

「え、あー…どっちでもいいけど」


どうせ康太のことだから明日には元気になって学校に来るはず。正直、わざわざ見舞いに行くまでもないと思うんだけど、と苦笑いするが、瑞希ちゃんに駄目ですよ!と言われてしまった。


「土屋君、月乃ちゃんのこと待ってますよ!」

「いやー、そんなことないと思―…」

「土屋君と付き合っているんですよね?」

「……え?」


そんなことはないと思う、と続く言葉を瑞希ちゃんに遮られたが、その後にの言葉に私はフリーズした。
今、彼女はなんと仰いました?私と、康太が、つきあう?吐き合う?突き合う?付き合う?
頭の中で瞬時に変換し、彼女が言っている"つきあう"は最後に出てきた"付き合う"のことだと理解し、ちーん、と一致した音が聞こえて来た。実際にはしてないけど。


「土屋君、月乃ちゃんと一緒に居ると時と私たちと居る時とでは全然違いますから」

「いやいやいやいやいや!」


楽しそうに笑う瑞希ちゃんに私は思わず待ったをかけた。
そりゃあね、幼馴染だったら瑞希ちゃんらと一緒に居る時と違うに決まっているよ。


「こ、康太はただの幼馴染だから!」

「えーそうなんですか……?」

「あからさまにガッカリしないでよ!」


しゅん、という効果音が聞こえてきそうだ。


* * *


と、まあ、Fクラスで瑞希ちゃんと会話した後、私は仕方が無く康太の家へと向かうことになった。別に急ぎのプリントではないと思うけど、瑞希ちゃんににこやかに頼まれてたため思わず首を縦に振ってしまった。


「…私と康太が、ね」


それにしても、私と康太ってそんな目で見られていたのかな?私としては、秀吉君と優子みたいな関係なつもりでいたんだけどな。…あれは双子だけど。


「……」


ドキドキする心臓が止まらない。
実はというと今まで瑞希ちゃんみたいなことを言われたことが無かった。不思議なのかもしれないけど。
…私もこれでも女の子だ。
「付き合っているんじゃないの?」なんて言われたら妙に意識してしまうわけであって、私は、康太の家の前でインターフォンを押せずに居た。
いつもならすんなりと指を伸ばすことが出来るんだけど、今は躊躇ってしまう。
どんな顔して康太に会えばいいの?会ったら会ったで変に意識してしまいそうで。
…いや、でも待てよ?
インターフォン押しても康太が出てくるとは限らない。むしろ風邪をひいているのだから家の人が出てくるに違いない。
…だったらプリントを渡して、はい、さよなら、で良いじゃないの。


「うん、そうだよ!渡すだけ渡せばいいのよ!」


と、自分に言い聞かせて私はインターフォンを押した。


「……」


いつもなら鳴らして10秒以内には出てくるはずなのに誰も出て来ない。あ、もしかして今手が離せない状態とか?それだったら申し訳ない、なんて思いながらソワソワしながら待つ。


『…………はい』


そしてインターフォン越しに出てきたのは康太だった。
な、なんで康太なんだよ…!


「わ、私。立花月乃。プリント届けに来たんだけど」

『…………鍵かかってないからどうぞ』

「え、あ、ちょ、康太…!」


私としては玄関口で渡してさよならしたかったのに、康太はそれをさせてくれなかった。させてくれなかった、と言ったら違うけど、私にとってはそう。彼にとってはいつも通りなんだけどね。


「お、お邪魔しますー…」


何も言わなくなったインターフォンにため息を吐いて、私は仕方がなく玄関を開けた。
玄関にある靴を見るとどうやら康太しかいないようだ。…こんな時に限ってどうして…!


「こ、こうたー?」


玄関を閉めて、彼の名を呼ぶ。
こうなったら玄関にプリントを置いて帰ろう。


「プ、プリント届けに来ただけだから!玄関に置いておくねー?」


よ、よし…!これでいい。これでいいんだ、と私は玄関の扉に手をかけた。


ガタンッ―…


と、同時に二階から凄い音が聞こえて来た。
え、今の音は何…?もしかして、康太が倒れた…?
私は今まで考えてたことはすっかり頭から抜け、急いで彼の部屋へと向かう。


「康太!?」


バンッ、とドアを開くと、康太は床に落ちた辞書を拾うとしていた。…え、辞書?


「…さっきの音、もしかして」

「…………辞書を落とした」

「そうか。私、帰るね」


心配させるんじゃないよ全く!私はてっきり康太が倒れたのかと思ったじゃないの。
踵を返して部屋を出て行こうとする私だが、制服に違和感を覚えて足を止めた。なんか引っ張られている。


「…………」


振り向くと康太が制服を引っ張っていた。それに加え、熱のせいで赤くなった頬、そして少しうるんでいる目で見つめてくる。
ま、待て…!そんな顔で私を見ないでよ…!ドキドキするじゃない。


「な、なに?」


平常心、平常心、と心の中で何度も唱えて口を開いた。康太と話するのってこんなに難しかったっけ?


「…………帰るの?」

「う…」


そんなことを言われると帰れるわけないじゃない…!こいつは確信犯か?そうなのか?


「…じゃ、じゃあもうちょこっとだけ」

「…………(コクリ)」


断るなんて出来ないよね。ああ、もう。直ぐに帰ろうと思ったのに。はあ…。


「…………」

「…………」

「…………え?」

「…………え?」


私がため息を吐いたあとにおとなしく布団に入った康太と私の目が合う。そして暫くの無言。お互い何故か「え?」と言いあう。いや、え?じゃないよ?え?って言いたいのは私の方だよ。


「…………看病」

「…はい?」

「…………俺、病人」


それは私に看病してくれと言っているのか。


「あ、あのですね!?私はプリント届けに来ただけであって」

「…………病人見捨てるんだ」

「そうじゃなくて!わわわ私だって色々と忙しいの!」

「…………」

「だから、私はこれで―…」


帰る、と。
荷物を手に取って立ちあがろうとしたが、素早く手を掴まれた。


「ちょ、ちょっと!?」


バランスを崩して倒れそうになったが、咄嗟に掴まれてない手の方を床についたため大事にはならなかった。


「…………なんか月乃。様子が変」


ギクリ。


「…………何かあった?」


…ええ、ありましたとも。ありましたけれども。
内容を康太に言えるわけがない。私が変になった原因は康太にあるのだから。


「な、何もないよ…!」

「…………」

「何もないから、手!」


パシッ―…


「…………」

「あ、」


図星をつかれてムキになり、康太の手を大袈裟に払いのけてしまった。
お陰で気まずい空気が流れる。


「私、忙しいからごめん!」

「…………っ!」


康太を見ずに部屋を出ようとしたけど、またもや彼に阻まれた。
私を帰らすまいと思って勢いよく起きたせいか、康太は頭を押さえていて少ししんどそうにしている。
…どうしてそこまでして引きとめるの。


「…………俺、何かした?」

「……」

「…………いつもの月乃じゃない」


私だって分かっている。いつもの自分と違うだなんて。だって、瑞希ちゃんにあんなことを言われてから、どんな顔して康太に会えばいいのか分からないんだもの。今だって、どう接していいのか分からないし、どんな顔しているのかも分からない。
私は康太に背中を向けて話を聞く。


「…………別に看病とかは良い」

「…じゃあ、なんで」


なんで、そこまでして私を引きとめるの?もう用事は無いんだよ?


「…………病気になると人恋しくなるもの」

「……え?」

「…………もう少しだけ、ここに居て」


心臓の音が煩いぐらい聞こえてくる。
お、落ち着くのよ私…!別に康太は深い意味なしに"もう少し居て"って言っているだけであって、私に特別な感情を持っているからとかではないんだよ!
…そうとは分かっていても。


「…そ、そこまで言うのなら…」


康太が私を求めているのならもう少しだけ、居ることにする。
語尾が段々と小さくなっていくのが自分でも分かったが、私にはこれが精一杯。


「……」


康太の顔は見ていないけれど、小さく、ふう、と息を吐く少し嬉しそうな音が聞こえてきた。
そのせいで私の身体はボッと熱くなる。


「こ、氷持ってくるね!」


赤くなっているのがバレないように、他の部屋でクールダウンしよう。それに、ここにいるならやっぱ看病はしないと私の気がおさまらない。


「…………だから、看病しなくても」

「い、いいの!私がしたいんだから!」

「…………月乃も顔が赤い」

「き、気のせい!」


と、私は康太から逃げるように台所へと向かって行った。
…結局は顔が赤いのはバレていたみたいだけど。





同じ頬の色。
…………様子がおかしかったのは、何故…?





++++++++++++++++++++++++++
後書き

50000hit企画第10段。
匿名様からのリクエストで土屋夢の看病系でした。
遅くなってしまい申し訳ございません…!
看病、というより会話してた気がしますが(汗)

匿名様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました。
(2012.06.10)
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