▽ 答えはyes!
放課後の生徒会室。
今日は特に仕事もないので、宿題を済ませてから帰ろうと思った俺と唐沢はまだ生徒会室に残って居た。ちなみに会長と副会長は帰ったが。
俺と唐沢は別に何か会話をしながら宿題をするわけでもなく黙々とペンを走らせている。別に気まずい空気とかは流れていない。むしろ俺たちの間ではこれが普通。会話したいときに会話する、といった感じだ。
そんな沈黙を破ったのは唐沢の携帯電話。俺の意識はノートから唐沢の携帯へと自然に移る。そして唐沢は一連の動作のように携帯を手に取り、発信者を確認すると電源ボタンを押して何事もなかったかのように携帯電話を机の端に置いた。
「…電話、出なくて良かったのか?」
電話に出ないことを当たり前かのようにする唐沢に危うく騙されるところだった。俺は疑問を唐沢にぶつけた。俺でなくても、誰でもそう問うに違いないだろう。
生徒会室には俺しか居ないし、此処で電話されても困ると言うわけでもない。ましてや、俺らはそんな気を遣うような間柄ではない。
てか、以前は普通に電話してなかったか?
「出る必要ない」
唐沢は短くそう言った。
必要がない…?ああ、もしかして非通知とか知らない番号だったってことか?それなら確かに出る必要はないな。
「…もう時期分かる」
しかし俺が思っているのとはどうやら違っていたみたいだ。知らない番号だったら"もう時期分かる"なんて発言はしないはず。
唐沢は一体何を言っているんだ?俺はペンを置いて唐沢の表情を読み取ろうと思ったが、奴は帽子を深くかぶっているために読みとることは出来ない。ぐぬぬ…。
それから数秒経ってから廊下の方でペタペタとスリッパを鳴らす音が響いて来た。その音は迷うことなく段々とこちらに近づいてくる。
誰か来るのか?と思っていると唐沢は大きなため息、そして次の瞬間、乱暴に生徒会室のドアが開かれた。
「電話を切るなんてひどいー!」
女が来た。
女が来た、のは良いんだが、その女は俺が居ることなんか気にもせずに唐沢に抱き着いていた。
…ええええ?
「出ても出なくても変わらないだろ」
「変わるよ!出てくれたら私がきゅんってなるんだから」
「なるほど。つまり、俺は着信拒否をすればいいんだな」
「どうしてそうなるのよ!」
ぷくっと頬を膨らませた女は唐沢から離れると自分の腰に手を当てて怒った。
…どうしよう。この状況についていけないんだが。
「でも分かっているからね。としゆきは私のことを一番に思ってくれているってことを」
「何も分かってない。そして思ってもないから」
「相変わらず照・れ・屋・さ・ん!」
「…はあ」
女は暴走気味で、それに対して唐沢は大きなため息を吐いている。
…さっきから俺だけ蚊帳の外なんだけど。そろそろ突っ込んでもいいよな?
「唐沢…」
その人、誰?とジェスチャーで伝える。
「こいつは…」
「私、立花月乃と申します!そしてとしゆきの時期彼女です!」
「嘘を言うな嘘を」
「えー、いいじゃんー。としゆき好きな人居ないんでしょ?」
「居る」
「え!?あ、そうか!私ね!」
「はあ…」
はい、本日2度目の大きなため息を戴きました。
とりあえず、この子は唐沢の事が大好きってことは分かった。まあ、行動を見ただけでも分かるけど。
……こんな可愛い子に想われているなんてお前…羨ましすぎるぞ。
「羨ましいか?それなら遠慮なくどうぞ」
唐沢に心の内を読みとられてしまい、手のひらを上に向けられた。
何だコイツは。エスパーか?エスパー伊○か?
「ごめんなさい。私、としゆき以外の男の人に興味ないんです」
そして何故か勝手に振られてしまった。別に言葉にして告白したわけではないのに。
……俺、泣いていいかな?
気を取り直すためにコホン、と一つ咳払いをする俺。
「で、その立花さんとやらは、唐沢に何か用があったのですか?」
とりあえず、初対面の人だから敬語で話そう。
今までのやりとりから考えて何が飛んでくるのか分からないから警戒しておく必要がある。
「え?用事がないと来たら駄目なの?」
「……」
キョトン、とした顔で言われた。
いや、あの。別に駄目ってわけではないんですけどね。こう…会話のネタとして聞いただけであってですね。
それだと話が終わってしまうわけですよ。
「コイツは用事が無くてもいきなりやってくる」
「そ、そうなのか…?」
「流石としゆき!私のこと良く分かっているね」
「何度も同じ行動を取られると嫌でも分かる」
「まったまたー!」
さっきから同じ調子で会話が繰り広げられる。
ホントそろそろ俺、帰って良いかな?
立花さんからすると俺って邪魔だと思うし。…まあ、唐沢は帰ってほしくなさそうだけど。
「月乃。電話が鳴っているぞ」
「え、あ、ホントだ。としゆきからかな?」
「んなわけねーだろ」
キャッキャと嬉しそうに携帯電話を取り出した立花さん。唐沢の言う通り、奴からの電話なわけがない。隣に居るし携帯は机の上にあるのだから。
「……」
立花さんはディスプレイ画面を見るなりに表情が一変。そして、唐沢の方に顔を向けて、
「ごめん、ちょっと先に帰るわ。お邪魔しました!」
と、最後に俺の方を見て軽く頭を下げると騒がしく生徒会室から出て行った。
一体何処からの電話だったんだろうか?今までの行動を考えると立花さんは唐沢を優先しているようだが、それよりも優先する事柄が起こったというわけだ。…まあ、推測するだけ無駄だけどよ。
唐沢は、というと両手を組んでそれを額に当てている。
「…大変そうだな。お前の彼女」
「だから彼女じゃない」
さっきから唐沢は立花さんの事を彼女じゃないと言うが、だったら二人はどういう関係なんだ?俺に分かるように説明してくれ。と言いたいところだが、あの唐沢のことだ。はっきりと言わないだろう。だから、俺は探りを入れてみることにする。
「そう言っているわりには立花さんと会話しているときの唐沢は楽しそうに見えたけど」
「それは気のせいだ」
「ほほう?」
「…何だその目は」
「別に?」
少し顔を上げて俺を見る唐沢。
帽子のツバの下から覗く唐沢の目が少し怖く感じた。
* * *
「あれ、立花さんじゃないか?」
「……」
立花さんが生徒会室を後にしてから俺達は少し会話をしたものの、勉強に戻る気分にはならなく、そのまま下校することにした。
暫くして河川敷沿いを歩いていると立花さんは知らない男子生徒と二人きりで居た。そして、
『立花さん。俺と…付き合って下さい!』
告白をされていた。
相手の男子の制服が学ランだから立花さんと同じで真田西高校の生徒だろう。遠目だからはっきりとは良く分からないが、顔はまあまあ良い方だと思う。俺が言うのもなんだが。
「…唐沢?」
唐沢は無言で立花さん達を見つめている。何だかんだ言って取られたくなかったりするんじゃねーの?なんて思ったけど、そんなの口が裂けても言えやしない。
「良いことだ。これで俺に付きまとって来なくなる」
「……」
口ではそう言っているが、俺にはどうもそう思っているようには見えない。
行くぞ、と唐沢が言うと先に歩きはじめる。立花さんの返事が気になるものの俺も唐沢の後を追う。
『ごめんなさい!』
男子生徒同様に立花さんの声は大きく、離れていても聞こえた。…大声で言うのが流行ってんのか?まあ、いい。
…予想通り立花さんは断った。まあ、生徒会室のやり取りを見ると断るわけないよな。
唐沢は立花さんの返事を気にしない、と言わんばかりに前へ前へと歩いている。俺も気にせずに唐沢の隣へと行く。
「とーしゆきー!」
隣へ行った直後だった。
後ろの方から物凄く勢いで走ってくる音と共に、唐沢の名前を呼ぶ声が聞こえてきたのは。
数時間前にも聞いた声。紛れもなく立花さんのモノだ。つーか気づくの早いな。レーダーでも持ってんのか?
「もー!なんで先に行っちゃうのかなぁ!」
どーん、と後ろから唐沢に抱き着く。唐沢のうなり声が小さく聞こえた。
「なんでも何も月乃が居ることに気が付かなかった」
「またまたー!嘘を言って!」
確かに嘘だ。俺はこの目で見たぞ。それにさっきまで俺と立花さんの話をしただろうが。
「どうして告白を断ったんですか?」
唐沢は理由を聞かないだろう。ま、大方の理由は察しがついているが、奴の耳に入れておいた方が良いんじゃないのかと俺は思った。余計なおせっかいかもしれないけど。
「そりゃあとしゆきが一番だから決まってるじゃないの」
はい、希望する回答ありがとうございました。と俺は心の中でお礼を言った。
流石に唐沢もこの一言がきいたのか。ほのかに頬が赤いようにも見える。
「分かったから退けろ。思うように歩けん」
さっきと対応が多少違うようにも見える。
それは俺だけではなく、立花さんも感付いたようだった。
「ははーん。さてはとしゆき。私が告白をOKしなくて良かったなぁなんてホッとしているんでしょ?」
「誰がそんなこと思うか」
「まったまたぁ。照れちゃって!そこも可愛いですけどね」
「もう喋るな。口塞ぐぞ」
「口を塞ぐ…!?つまりそれはキ―…って冗談冗談!冗談だってばっ!だから置いていかないでよー!」
楽しそうに唐沢を追いかける立花さんを見てるとなんだか微笑ましく思えてきた。
それと同時に、1人取り残されて少し寂しい感情が俺の中にやって来たのも言うまでもなかった。
…俺も彼女欲しい。
答えはyes!本当はホッとしたなんて言えない。
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後書き
50000hit企画第12段。
祥様からのリクエストでヒロイン攻めでほのぼのギャクという内容でした。
唐沢のことが好き過ぎるヒロイン設定で書かせて頂きました。攻めヒロインは楽しいので好きです(笑)
祥様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.06.23)
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