5万hit企画 | ナノ


▽ ゆっくり、と


「イワン君ー!」

「あ、月乃さん」


公園で待っていると小走りで来たのは月乃さん。白いワンピースが眩しい。とても似合っているため僕の頬は自然と頬が赤くなった。どうしよう、可愛過ぎる。


「ん、どうかしたの?」

「あ、い、いやっ…」


何でもないです、と思わず俯いてしまう。
その服似合ってますね、なんて恥ずかし過ぎて僕には言えない。言おうとしたら緊張のあまりうまく喋ることが出来ないと思う。
月乃さんは慌てている僕を見てにっこりと笑って、


「本当に何でもないの?」


と首を傾げた。
う、そんな顔を見せられたら答えるしかない…!だ、大丈夫。普通に言えばいいんだ。僕なら言える、と自分に言い聞かせて月乃さんの顔を見つめる。


「…その服。とても似合っているなって思って…」


思って、じゃないよ…!とても似合っています、ってどうして断言できないんだ僕は。これじゃあヘタレまっしぐらじゃないか。


「ありがとう。イワン君にそう言って貰えて嬉しいよ」


僕は月乃さんの笑顔を見れるだけで嬉しいです…!


「じゃ、行こっか」

「あ、はい」


僕は月乃さんの隣に駆けよって一緒に歩き出だした。
オフの時は彼女の月乃さんと一緒に過ごしている。幸せのひと時ってこのことを言うんだなってつくづく思う。
彼女は僕の好きな日本人で歳は僕より上。って言っても大して変わらないんだけど。


「……」


って、ナチュラルに月乃さんがリードしていない?さっきも月乃さんから"行こっか"って言われたし。これじゃあ駄目だよ。男の僕が行く場所をビシッとバシッと決めて行かないと…


「あ、あの、月乃さん!」

「イワン君。ちょっと此処入っていい?」

「あっ、はい、良いですよ」


…あっさり撃沈。いや、でも、これは物の考えようによっては気にしなくていいんじゃ?彼女が行きたいところをダメって言う理由もないしむしろ行きたいところは行かせてあげたい。
月乃さんと一緒に入ったお店はお洒落なアクセサリーショップ。ショーケースの中にはキラキラとキレイに輝いている指輪やピアス達。


「わー…キレイ」


月乃さんも嬉しそうにショーケースの中を見ている。
女の子ってこういうもの好きだよなあ。僕はどちらかと言うと嬉しそうにしている月乃さんを見るのが好きだけど。


「どれですか?」

「これ。イワン君の瞳と同じ色した指輪」


ショーケースの中を指さして言う月乃さん。僕の瞳と同じ色、なんて言われて少しドキっとしてしまう僕。


「キレイ…」


目をキラキラさせている月乃さんだけど指輪よりも月乃さんの方が、なんてちょっと臭いセリフかな。


「……」


僕は指輪から少し下にある値段が書かれたプレートに視線を移した。少し値は張るがこのくらいなら僕でも出せる。これでも僕はヒーローで稼いでいるからね。


「すみません。これ下さい」

「い、イワン君!?」


僕が店員を呼ぶと月乃さんは驚いた。


「い、良いよ!高いし…買ってもらうわけには」

「これぐらいなら大丈夫ですよ」

「無理してない…?」

「してません」

「本当に?」

「本当です」


こんなやりとりをしていると年上ということを忘れてしまう。やっぱり月乃さんは可愛い人だなぁと和む。日頃の疲れなんて吹っ飛んでしまうぐらい。


「あの、お客様…」


少し困った声が聞こえてきて僕はすみません、買います、と言う。


「ありがとうございます。お会計はこちらになります」


僕は店員さんに連れられてお会計を済ませた。そして月乃さんが欲しがっていた指輪を受け取った。


「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」


店員さんに頭を下げられ思わず僕も頭を下げる。隣には嬉しそうな笑みを浮かべる月乃さん。


「イワン君ありがとう」

「どういたしまして」


この笑顔が見れるなら安いものです。と思いながら僕達はお店を後にした。


「ねえ、イワン君」

「なんでしょう?」

「あの…」


いつもは僕の方が頬を赤くするのに今回は珍しく月乃さんが赤くしている。どうしたのだろうか。


「良かったら、その指輪…。イワン君が私に付けてくれない?」

「えっ」


驚いたが同時に嬉しかった。月乃さんからそんなお願いが来るなんて…!


「駄目、かな?」

「そんなことないです。勿論付けますよ」

「ありがとう!」


ああ、今日何度目だろうか。この笑顔に癒されたのは。
僕は指輪を箱から取り出した。


「何処の指につけますか?」

「右手の薬指にお願いしていい?」

「かしこまりましたお姫様」

「お姫様だなんて…」


年上をからかうものじゃありませんよ、と怒られてしまった。
すみません、ちょっと困る月乃さんを見てみたかったんです。


「でも、僕にとっては月乃さんはお姫様です」

「もう…言葉が上手いんだから」


ああ、可愛い。本当に僕、ベタ惚れだな、と思った瞬間だった。
スッと月乃さんの細い指に指輪を通した。


「どう、かな…?」

「キレイですよ」

「ありがとうイワン君」

「どういたしまして」


今日はもう満足だ。


* * *


「あ、あの月乃さん」


そういえば忘れてた。ファイヤーエンブレムさんにあることを頼んでみなさいと言われたことを。


「ん、なあに?」

「お願いがあるんですけど…」

「何かな?」


にっこりと笑う月乃さん。
うう、ファイヤーエンブレムさんが言っていた"コレ"を頼むの…なんだか恥ずかしいな。考えるだけで体中が熱くなってくる。でも、月乃さんは僕の言葉を待っている。い、言わなければ…!


「"熱中症"ってゆっくり言ってみて下さい」


…言ってしまった。ぽかんとした顔を僕に向けたかと思うと直ぐにふわりと笑った。うん、良いよ、と。


「ねっちゅうしょう、ねっ ちゅうしょう…ね ちゅう しよう…。ふふ、こういうことかな?」


月乃さんが紡ぐ言葉は段々とゆっくりになっていき"ねえ、チュウしよう"と聞こえたところで月乃さんは笑うと僕の頬に柔らかいものが触れた。


「ええ…!?へえええ!?」

「イワン君って可愛いね」


僕は右頬を触りながら月乃さんを見る。月乃さんは言葉の通り僕の頬にキスをしてくれた。してくれたのは良いんだけれどまさかしてくれるとは思ってもいなくて当然のことながら焦る僕。


「か、可愛いなんて言われてもうう嬉しくないですよ!」

「だって可愛いんだから仕方ないじゃない?」

「うう…」


でも、男としては可愛いって言われるよりもカッコイイって言われる方が嬉しいわけであって…。でも、今の僕じゃあそんなことを言われるなんて夢のまた夢の話。やっぱり月乃さんには敵わない。いつも彼女の方が一枚上手である。


「そんなイワン君のことが私は好きだよ」

「月乃さん…」


今はカッコイイ、なんて言われないかもしれないけど、いつかは月乃さんの口から"イワン君カッコイ"って言わせてみせる…!と、こんな僕ではありますが心の中でひそかに決意した。





ゆっくり、と
とりあえずはふわりと笑う月乃さんを目に焼き付けておく。





++++++++++++++++++++++++++
後書き

50000hit企画第19段。
割烹着様からのリクエストで年上夢主でほのぼのらぶな話でした。
可愛い系のイワンで彼女にベタ惚れという設定で書いてみました!イワン可愛いよ←

割烹着様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.07.21)
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