▽ ホントの気持ち。
「唐沢。ラーメン食って帰ろうぜ」
「ああ」
生徒会の仕事が終わって俺と唐沢は下駄箱でそんな会話をした。
俺達はたまにこうやって帰りにラーメンを食いに行ったりする。まあ、ラーメンを食うからと言ってミツオ君みたいにコショウを全部ぶちまけたりはしないけど。
靴を履き替えてポケットに手を入れながら正門へと向かう俺ら。
「唐沢さんっ!今日もカッコイイですね!」
…さっきまで普通の男子高校生の日常だったのだが、ここで一変した。正門の方から黄色い声が聞こえてきた。
当の本人である唐沢は、というと手で目を覆いながら気が沈んでいるよう。
「またお前か、立花…」
呆れ顔をする唐沢に対して嬉しそうな顔をする立花。
彼女は中央高校に通う立花月乃。一見、何処にでもいそうな普通の女子高校生なのだが、コイツは一部(いや、全部か?)、問題がある。
「私の名前を覚えてくれてたなんて…!これは私に対して好意を抱いていると捉えてよろしいでしょうかっ!」
「よろしくないです」
さっきから繰り広げられているやり取りを見ても分かるように、立花は唐沢に好意を抱いている。
立花本人曰く、唐沢に一目惚れをしたみたいだ。
一目惚れは大いに結構。
自分の友達が好かれるのは悪いものではない。ただ―…
「んもうっ、唐沢さんって相変わらず照れ屋さんですね!」
「照れてない」
「それはそうと、以前、真田西高校のおかっぱ女子と一緒に歩いていましたよね?何処のどいつですか!?」
「何故知っている」
「私に知らないものなんて無いです。唐沢さんラブですから!」
「頭痛くなってきた…」
完全なるストーカーだ。
俺だって生徒会関係で唐沢とよく行動を共にしているが、立花は俺が知らないことを良く知っている。おかっぱの女の子と一緒にいたこととか(まあ、一緒に居たくて居たわけじゃないと思うけど)
だから、立花は俺らの間では『唐沢のストーカー』として認定されている。ヒデノリ辺りは凄く羨ましがっていた。
「頭痛いんですか!?私、頭痛薬持っていますよ!今日の唐沢さんのために!」
立花はカバンの中をガサゴソさせて頭痛薬のバファリ○を取り出し、唐沢に差し出した。
「あ、水も持っていますよ!?なんなら口移―…」
「モトハル。帰るぞ」
彼女が発するべく言葉を最後まで言わせる前に唐沢は見事なまでに遮ってスタスタと歩いて行った。
…多分、『口移し』って言いたかったんだろうな。
「ちょ、ちょっと!?どうしてそんな男と一緒に帰るんですか!?私が唐沢さんの事を気遣っているというのに!」
「誰も頼んで居ない」
「あ、そういうことですか!?このヒゲが居るから恥ずかしがっているんですね!と、言うことでアンタ消えて下さい」
「俺の扱い酷くね?」
立花は慌てて俺らの後を追いながら、俺に邪魔だから消えろと言ってきた。
唐沢に対してと俺に対しての接し方がまるで違うんだが気のせいだろうか。
「私と唐沢さんの恋路を邪魔するなら誰であろうと容赦しませんよ」
…気のせいではなかった。
立花の背後にはゴゴゴゴという文字を背負っているように見えた。
……俺、帰って良いかな?ラーメン、一人で食べて帰るよ。
「…モトハル、俺を一人にするな」
踵を返して帰ろうとしたが、唐沢はそれをいち早く察知し、俺の腕をガッチリと掴んだ。
…相変わらず行動が速い奴だな。
「唐沢さん、私が居ますよ!」
「お前はいい」
「おっ、お前だなんて…!それは将来私と結婚してくれると取っても問題ありませんね!」
「大問題だ」
問題ありませんか、と問わずに断定しやがったぞコイツ。どんだけ強引なんだ。
「どうしてですか…!私、こんなに唐沢さんのことを想っているのに…!も、もしかして、あれですか!?唐沢さんはこのヒゲのことを好きなんですか!?」
「俺、モトハルなんだけど」
「名前なんて聞いてません。と、いうか覚えるつもりもありません。私と唐沢さんの話に割って入らないで下さい」
いちいち酷い奴だなこいつ。
…それより、唐沢が俺のことを好きだってどういうことだ。そんなわけがないだろ。俺達男同士だぞ。
「ちょっと来い」
唐沢は立花と会話するのに疲れたのか、それとも立花の俺に対する対応にムッと来たのか、彼女を説得するためにそう言った。
…何故か俺の腕を掴んでいるが。
てか待て待て。何で俺?ちょっと来いって言う相手って俺ぇ!?コレおかしくない?俺と話し合う必要性全くなくね?
「唐沢さん!私はこっちですよ!?」
そっちじゃないですよ!と、アピールするものの唐沢は全く聞く耳を持たずに俺の腕を掴んで走り始めた。
最初は俺の腕を掴んで走っていたが、立花から逃げるために(あれ、なんで?)唐沢は手を離した。俺は唐沢の後を追うだけ。
俺らが本気で走っていると立花の姿は段々小さくなっていき、しまいには姿が見えなくなてしまった。
つまり、撒いた、ということ。
「はぁ…はぁ…」
路地裏に入り込み、俺と唐沢は肩を上下させながら息を整える。
「すまん。巻き込んだ…」
「いや、別にいいけど…」
今回初めて巻き込まれた、というわけではなく、いつものことだから俺は全然気にはしていない。
しかし、唐沢はどうしてここまでして立花から逃げるのだろうか?会話だってまともにしない。いや、会話については立花に問題があるか。
そして俺は一つの考えに辿りついた。
もしかしてこれは…
「お前、立花のことどう思ってるんだ?」
表面上ではうっとおしがっているが、俺の推理が正しければ―…
「別に。どうとも思っとらん」
口ではそう言うが、唐沢も立花のことを好いている。
今まで一緒に行動して来たが、唐沢の周りに居る3人組の女子との関わり方に比べれば立花と話(?)をしている時は何処となく照れているように見える。立花が『唐沢さん照れている』と言うのはあながち間違っていない。
まあ、でも、唐沢のことだからもしかしたら気付いていないかもしれない。もしくは、好かもと思っても認めないだろう。だから、俺は―…
「…じゃ、俺が好きになっても良いんだな?」
「…は?」
友人の恋に気付かせるよう背中を押そうじゃないか。
さっきまで両手を両膝に体重をかけていた唐沢だったがスッと背筋を伸ばした。
「いや、だから、好きになっても―…」
「……」
唐沢は考え込むように黙ってしまった。
ふむ、と手を顎に添えて。
さあて、唐沢はどう出るか?自分の気持ちに気付くか?それとも気付いても否定し続けるか?
そして、自分の考えに納得したのか、唐沢は首を縦に振った。
「お前、趣味悪いな」
「は?」
今度は俺が『は?』という番だった。
「立花はモトハルに対して扱いが酷い。…そういうのが好みか?」
「そうじゃねぇーよ!!」
思わずツッコミを入れてしまった。
「俺は、唐沢が自分の気持ちに気付いて、それに素直になれば―……はっ!」
勢いのあまり言ってしまい、気付いた頃は時すでに遅し。
し、しまった…!これじゃあ作戦失敗じゃないか…!
い、いや。逆に考えよう。これでもしかして唐沢は自分の気持ちに気付くかもしれない。
「俺の気持ち、だと?」
なんだ、それは。と言わんばかりに唐沢は首を傾げた。
だめ、か。
仕方ない。こうなったらハッキリ言うしかないな。
「…お前、立花のこと好きだろ」
…しかし、何故だうろう。
俺、別に告白しているわけでもなんでもないのに、どうしてこんなに緊張するんだろうか。
唐沢はというと俺の言葉を聞いても微動だにしなかった。動揺すらしなかった。
「俺は…」
ゴクリ、とツバを飲み込む。
俺は唐沢の口から出る言葉を待った、が―…
「唐沢さん!?私、知ってますよ!何だかんだ言って唐沢さんは私のことが好きだって!」
「空気読めよお前ぇぇえ!!」
どっからかとも無く立花が現れ、唐沢に後ろから抱き付いた。
「は、離れろ」
「もう、照れなくてもいいじゃないですか!私たち、結婚する仲なんだし」
「まだ付き合っても居ない」
「じゃあ、付き合いましょうよ!今からでも!」
あーあ、タイミング悪く現れてしまったせいで唐沢の気持ちを聞きそびれたじゃねーか。どうしてくれんだ、まったく。
俺はモヤモヤした気持ちで頭をかいた。
「……」
そして、このとき俺は見てしまった。
今まで立花に対して嫌がっているように見えた唐沢が、
頬を染めて本気で照れているところを―…
ホントの気持ち。やっぱり、好きなんじゃねーか。
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後書き
50000hit企画第1段です。
奈々子様からのリクエストで『北高公認の唐沢さんストーカーもどきで唐沢さんもまんざらでもない。ギャグ』という内容でした。
個人的に内容が面白かったので早速書かせていただきました(笑)
ヒロインちゃんがかなり暴走してしまいましたが…(汗)
奈々子様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2012.03.17)
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