白龍にピアス

微妙にこれの続き



「白龍〜」
ぱたぱたと名前が駆け寄ってきた。
こころなしかキラキラとした笑顔であるのが怖い。
一緒にいたアラジン殿は、「じゃ、じゃあ僕モルさんにお願いすることあるから、行くね!」と言って逃げてしまった。
「お久しぶりですね。……どうしたんです」
「えっとね、俺の部屋来て!」
ぐいぐいと左腕を引っ張られ、抵抗することもなく彼に従う。
鼻歌まで歌う彼に、呆れながらも彼の考えていることを想像する。
彼だけを置いて亡命してから二年だ。
二年もの間なにも知らせず、彼に何もしなかった。
とっくに別の人と一緒になっているだろうと思っていたのだが。

「白龍、おかえり」
ぱたん、と音を立てて扉が閉まった。
それと同時に懐かしい温もりと匂いに抱きしめられた。
否、彼のほうが幾分も背が低いから抱きつかれたと言っていい。
ただ、余りにも懐かしくて、自分は二年経っても覚えていたのかと安堵した。
「白龍、背ぇ伸びた?」
「貴方は縮みましたか?」
笑顔だった顔が、一転不機嫌そうに眉を寄せた。
「縮んでないし!」
「……痩せました?」
「成長じゃない?」
そんなに変わってないよ、と彼は言う。
「……穴は増えたみたいですね」
腕をとり、つけられている装飾品に触れる。
「あー…まぁね」
どこかばつが悪そうに彼は応える。
剥き出しの左腕に3つ、右腕に7つピアスがついていて、これは二年前にはなかったものだ。
「……寂しかったですか?」
ちらりと覗いた項にもピアスがあった。
自分には自ら身体を傷つけようとする気持ちがわからないし、装飾品で飾り立てる気持ちもわからない。
「寂しかった……よりは辛かった」
ぼそり、と彼は低く呟いた。
俯きがちで、長くまっすぐと伸びた睫毛しか見えない。
ゆっくりと睫毛が動く様子に、胸が苦しくなった。
あまりに華奢で幼く、頼りない。彼に。
「俺は邪魔でしかなかったのかとか、もう帰って来ないのかとか考えちゃって。色々考えたら誰かとセックスしたくなっちゃうし、でも、俺……そういうことすんのはもう白龍だけだって言ったからさ」
だから、気を紛らわすためにピアスを増やしてみた。
そう言って彼は顔をあげた。
大きな瞳は恥ずかしそうに、しかしまっすぐと自分を見ていた。
吸い寄せられるように顔を近づけ、唇を合わせた。
優しく触れたいと思う手は震えてしまう。
ぎゅ、と熱い彼の手が俺の手を握った。
そうだ。そうだった。
彼の手は、舌は、身体中はいつだって燃えたように熱かった。

「やっぱり、白龍はどこも冷たいね」
えへへ、とだらしなく笑う。
愛おしい。素直にそう思って、額に口づける。
「約束……思い出しました」
なんの?と名前は首を傾げた。
大きな瞳は好奇心旺盛に俺を見つめている。

「貴方にピアスを贈ってもらう約束」
「まかせろ!!もう選んであるんだ!」
まぶしい笑顔に変わり、彼は猫のような仕草で俺から離れた。
ベッド脇のローチェストから何かを取り出すと、名前は自分の横を叩いて俺を呼んだ。
素直に従って、彼の横に座る。
やわやわと左耳を揉まれると擽ったい。
「はーい。動かないでね」
「失敗しないでくださいよ」
「高貴な白龍様だから下手に傷つけられないね。大丈夫!腕切られた時より痛くないよ!」
「……そりゃ、そうでしょう」
細く息を吐き、息を吸う。
ぎゅ、とした痛みに眉を寄せた。それだけだった。
「はーい。もう怖くないよ〜」
手のひらを見せた彼は、子供をあやす様に微笑みかけた。
「……こんな痛みでは、ちっとも気が紛れませんね」
よしよし、と頭を撫でられる。
子供じゃないんですから、そう言えば彼は優しい顔をした。
どこか遠い記憶の優しく美しいあの人のような笑顔。

「白龍は大きく……強くなったね」

彼がまるで彼女のようで俺は突然に恐ろしくなった。


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