最期まで好きでいさせてね

スマホを片手に辺りを見回す。
「あっれー…まだ来てないのかな」
着信履歴とメール、SNSを確認するも、新しい通知はない。
青年―タイのスケーターであるピチット・チュラノンは黒のマスク、彼には珍しい黒のスーツというスタイルで、よくわからないオブジェの下で人を待っていた。

「……写真とっちゃお〜」
ぱしゃり、とシャッター音がするはずだった。
しかし、彼はスマホの画面を覗くなり、セルカ棒を握った手を引っ込めた。
そして勢いよく後ろを振り返り、叫ぶ。

「名前!!」

「サワディークラ!ピチットくん、いらっしゃい」
勢いそのままに抱き締められた女性は、満足そうな笑みを浮かべた。
「もう!隠れて見てるなんてひどいよ〜!!」
ぐりぐり、と頭を彼女の肩に押し付けながら不満を垂れると、彼女は彼の背を撫でてあやした。
「どうするかなーって思ってさ。……ごめんごめん、イカの像と写真撮る?」
「……あれイカなの?」
がばり、音がつきそうな速さでピチットの身体が離れ、彼は像を見上げた。
「そうだよー」
「一緒に撮ろ!」
ポーズをとり、2人と像をおさめる。
SNS狂いで有名な彼は、速攻で写真をアップしようとしてやめた。
様子を見ていた彼女は不思議に思い、彼の顔を覗き込んだ。
「あげないの?」
「どうせならもっと驚かせたいなって思って」
あと、これじゃあこれから何しに行くか皆にバレちゃうから。
そう照れくさそうに笑った彼の頬に柔らかな触れ合い。
少しの間じゃれるように触れ合って離れた。

「お兄ちゃんが一番びっくりするだろうなー」
「勇利、怒るかな」
近すぎるくらいに寄って、手を繋いだ。
「怒るかもねー。でも、ちょうど一昨日帰ってきたからタイミングは最高」
「ユーリもヴィクトルもいるんでしょ?」
「騒がしくなるね」

親指が人差し指を擽ると、握る力が強くなった。






「ねぇ名前、なんて言うんだっけ?」
「えっと、″名前さんを僕にください″……?」



title by たとえば僕が さま



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