俺のご主人様、
 





俺は久世貴文のペットである。




久世貴文とは最低な男で、まぁ中学生である俺をペットにするような男だ。普通ではない。

しかしその美貌やスタイルの良さから、ヤツの周りには女が途絶えることはない。


関東一帯を占めるヤクザの一員であるヤツには人望もある。
まだ31歳という若さながらその組の幹部に選ばれるという有能さとあれば、ヤツがモテるのも無理はない。

ヤツの周りには常に男女問わず人がいる。


しかし俺はヤツを好ましいと思ったことはない。それどころか憎くて憎くて仕方がない。
それもそのはず、俺はなりたくてヤツのペットになったわけではないのだから。





それはある日突然やってきた。

学校から帰宅した俺はいつも通り宿題を片し夕飯の準備に取り掛かろうとしていた。
そんなときにヤツはやってきた。


普段はあまり鳴らない時間に鳴ったインターホンの音を不審に思いつつも、どうせ荷物だろうと思い扉を開けた。

そこに立っていたのがヤツ、久世貴文だ。


真っ黒なスーツを着たヤツはいかにも、という感じで俺が恐怖を抱くまで時間はかからなかった。



「ど、どちら様ですか……?」


その声は多分震えていたと思う。ヤツの威圧感は凄まじいものであったからだ。
ヤクザに怯まない中学生がどこにいるというのだ。



「君が優也ちゃん、だね?」

ニコリと笑いながら言ったそれは疑問系でありながら、否定を許さなかった。
俺はただ首を縦に振ることしかできなかった。



「よかった。じゃ、運んじゃって」


ヤツがそう言うと後ろからガタイのいい黒服が現れ、黒服の肩にヒョイと担がれた俺は、抵抗したもののガキの抵抗なんざ屁でもないと言わんばかりに連行された。


黒服の肩から降ろされた場所は黒塗りのいかにも、といった風な車の中であった。
そして俺はあっという間に両手足縛られ座席に転がされた。



「どこ、連れてく気だよ!ていうか、これ犯罪だろ!」


これは立派な犯罪だ。俺は誘拐されている、知らん相手にこんな風に連れ回されるなんて誘拐以外何物でもない。


「俺は久世貴文、今日から君の飼い主になるんだ」
「は?」


ニコリと笑いながら言うヤツのセリフが全く理解できない、誰が誰の飼い主だと?
そもそも俺は人間で、ペットではない、ペットになりえない。



「だから、今日から君は俺のペット。俺は君の飼い主、理解できる?」

理解できるわけがない、何を言ってるんだこいつは、そういう顔をヤツに向けるとヤツはさらに笑みを深め言った。


「君は、親に売られたんだよ。俺がそれを買った、だから君は俺のペット。わかったかい?」


売られ、た。

その言葉の意味を理解するまでに数秒かかった、というよりその言葉の意味を理解したくなかった。

クソみたいな両親だというのは誰か見ても明白だった。

ろくに育ててもらった記憶もない。借金にまみれ遊び倒し、家にはほぼ帰らない。

そんなクソみたいな両親ではあったが、学校には通わせてもらえていた。
だから俺は心のどこかで中学までは通えるだろうと油断していた。


中学二年、という突然、半端な時期にこんなことになるとは全く考えもしなかった。



「……売られたって、どういうことだ」

やっとの思いで絞り出したその声は震えていた。
それもそのはずだ、どこに親に捨てられ売られた動揺中学生がいるというのだ。



クソ親に売られたということは信じたくないが、奴らならやりかねない。
しかしそれを買ったというこいつはなんなんだ?
俺を買ってどうしたいんだ。

まさか、臓器でも売られるのだろうかとゾクリと肩を震わせているとヤツが口を開いた。



「そのままの通りだよ、君の両親が借金で首が回らなくなってしまったからね。君をそのカタにしたんだ」
「借金……」
「本当は君一人では全然足らないほどの額なんだけどね、俺が君のことを気に入ってしまったから」


まるで語尾にハートでもつきそうなほど楽しげな口調で話すヤツに吐き気がした。



「今から君は俺に飼われるんだ、自由なんて許さない。殺したりなんてしないよ。外に出さず、大事に大事に飼ってあげるからね」
「が、学校は……?」
「そんなもの行かせるわけないだろう?」


別に学校になにか思入れがあるかといえばそうでもない。
でも一応は義務教育だ、もし俺が学校に行かないことで誰か不審に思ってくれればもしかしたら……、



「そもそも君が学校に通わなくなったところで誰も気にかけるわけないだろう?」
「そんな、わけ……」


ないと言い切れなかった、学校では必要以上に誰かと話すこともなかったし。
目つきも悪く常に機嫌が悪いと勘違いされがちなこの表情は人を近寄らせないには十分だった。


親友、と呼べる人物は一人もおらず。友人と呼べる存在すらいるか危ういようなそんな付き合いしか俺にはなかった。


「君が学校からいなくなっても大丈夫なようにしてあげるから。まぁ、そんな必要ないかもだけど」
「っ……」
「君がいなくなっても、誰も気にしないよ。誰も気がつかない、君一人いなくなったところで何も変わらない。いなくても世界は回り続ける、そうだろう?」


そう問いかけられても、否定も肯定も出来なかった。
否定したかったが、出来なかった。しかし肯定してしまっては自分が世界から必要とされていないということを認めるみたいで嫌だった。

親にも知人にも必要とされていないなんて、わかってはいたが他人に自覚させられるとどうしようもなく心が締め付けられる。



「だから、」
「……?」

「だから俺が必要としてあげるんだよ、ペットにして。君を必要としてあげるんだ」


俺は、久世貴文のペットであるということを受け入れなければならない、漠然とそう思った。


そうでなければ俺という存在は何からも必要とされなくなってしまう。

認めたくないのに、認めなければならない。そう思ってしまった。


「嬉しいかい、優也ちゃん?」




「……う、うれし、い、です」





こうして俺は、久世貴文のペットになった。



END


久世優也(14)
借金のカタに両親に売られた不憫な中学生。三白眼で目付きが悪くガリガリ。


久世貴文(31)
有名なヤクザの幹部。性格は歪んでる。優也のことを気に入ってるが好きなわけではない。



優也ちゃんがただの可哀想な子になった上に貴文さんが歪みまくった人に。
一度全部消えてしまったんで、終わりが前回とだいぶ違うくなりました。



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