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2日ぶりのお風呂を堪能してからハンバーグを食べさせて貰い、奈々子と次の日に下着等の生活に必要なものを揃えに行く約束をした。厳密には南次郎に車を出してもらい2人で買いに行く。
気を失った後に寝ていた布団は汗で濡れていたので、奈々子が干してくれた。新しい布団を出してもらい、物置きになっていた部屋に敷いてもらう。
「ちょっと埃っぽいけど、明日掃除すれば問題ないと思うから我慢してね」
「何から何まで、すみません。明日またお礼言わせてください」
大丈夫よとウインクする奈々子は間宮にとって救いの女神である。ありがたいと手を合わせてから、明日起きる時間を伝える。
「朝はごはん準備する時間に起こしてください、手伝います」
「あら、そしたら遠慮せずそうさせてもらうわね。じゃあ、おやすみなさい」
奈々子が出て行ってから、ふぅと一息つく。布団に入るとすぐに眠りに落ちた。
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身よりができた安心感でぐっすり眠れたからか、次の日間宮の寝覚めはとても良かった。一番に目が覚め、顔を洗っていると目をこすりながら奈々子が起きてきた。
「おはようございます」
「あら、ひかりちゃん早いわね」
「すごくよく眠れました」
寝癖が付いている奈々子さんも可愛いなと思いながら台所へと向かい、コップを借りて1杯水を飲んだ。後を追うようにコンコルドで髪をあげた奈々子が台所へと入って来る。
「今日は朝何作りますか?」
「うーん今日は洋風の朝ごはんかな」
「じゃあコーンスープかミネストローネですかね」
冷蔵庫を見せてもらうと野菜は一通り揃えてありトマト缶も用意してあった。
「じゃあミネストローネ、作りますね」
「なんて頼もしい子なの、お願いするわね」
2人で料理を進めると、あっという間に4人分の朝ごはんが出来上がった。目玉焼きの上には奈々子がにこちゃんマークではなく猫の顔を描いていた。
「この猫ちゃん、このお家の子なんですか?」
「そう、カルピンっていうの」
そういえばリョーマもそう呼んでいたような。
「さて、準備が終わったから2人を起こしに行きましょうか。昨日頭を打った後に寝てたのがリョーマさんの部屋だから、起こしに行ってもらえる?」
南次郎の寝相はひどく、とても身内以外には見せられないそうだ。間宮は言われた通りリョーマの部屋に向かう。数度ノックをしたが返答が無いので、そっと扉を開いた。ベッドで寝息を立てるリョーマは起きている時より幼く見える。その近くにはカルピンがリョーマで暖をとるようにして寝ていた。
「あのー、リョーマくん、朝ですよ…」
そっと声を掛けるが反応が無い。昨日今日の関係で体に触れていいものかと思いながら肩を何度か叩いた。すると、薄く目を開けてリョーマが言う。
「奈々子さん……じゃない」
「起こしてきてって頼まれたの」
「んー、あと5分」
そういって布団を被りなおしたタイミングで、外から騒がしい声が聞こえてきた。奈々子が南次郎を叩き起こしているようだ。
「ごめん、リョーマくん、奈々子さん側に付きます!」
言いながら間宮がリョーマの布団を剥ぎ取ると、リョーマが嫌そうに起き上がった。
「……朝の敵が一人増えた」
頬に手形の残る南次郎と部活のジャージを着たリョーマはいつもよりちょっと豪華な朝ごはんに感動し、間宮に礼を言った。支度が終わるとリョーマはすぐにラケットバッグを背負って家を飛び出して行く。
「あ、今日雨振るって言ったのにリョーマさんったら折り畳み傘忘れてる」
「届けに行きましょうか?」
「お願いしてもいいかしら」
洗い物を始めた奈々子の代わりに、黒い折り畳み傘を持ってリョーマを追いかける。階段を下って少し行ったところで、リョーマと背の高い人が自転車を2人乗りして今に出発しようとしている所を見つけた。
「リョーマくん、折り畳み傘忘れてるよって奈々子さんが!」
「あ、忘れてた」
その先輩らしき人がニヤニヤしながら間宮とリョーマを見比べて言った。
「おい越前、彼女か?」
「桃先輩、違うっス。居候」
間宮はリョーマに傘を手渡して、桃城に軽く会釈をし戻って行った。自転車を進めた2人の話題はおのずと間宮の事になるが質問してもリョーマが居候としか答えないので、桃城はつまんねーなと自転車を漕ぐスピードを上げた。
「昨日会ったばっかりで何も知らないんだよな…」
「今何か言ったかー?」
「何も言ってないっス!それより前、前気を付けてください!」
電柱を間一髪で避け、自転車は青春学園中等部のテニスコートを目指して進んで行った。
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