裏側 | ナノ



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3.

間宮が目を開けると、見知らぬ天井。ふかふかの布団に横たわっており、ネットカフェの狭い部屋で一晩過ごした体には天国であった。あまりの気持ちよさに、もう一度眠りそうになる。

ふと、自分の足元で動く暖かいものに気づきそれが猫とわかるまでにそう時間はかからない。

「ほあらぁ」
「わぁ」

間宮の胸の上に乗って布団の端から顔を出す。あまり見たことがない、毛の長い猫種だ。ひと撫ですると、気持ちよさそうに顔を擦りつけてくる。

「こらカルピン」

間宮が声のほうを向くと、少年が部屋に入ってきた。すると猫はその少年のほうに逃げていく。

「あ、目さめたんだ」
「はい…」
「気持ち悪くない?」
「私頭に何かぶつけましたか…」
「オレの打ったボールが直撃したんだよね」

脳震盪じゃないかと心配して寝かせておいてくれたようで、少年にすんませんと謝られる。おでこに大きなたんこぶがあるが、触らなければ痛まない。

飲み物を取って戻ってきた少年と暫く沈黙の時間が流れる。間宮は少し柑橘の香りがする水に口をつけながら、何と説明しようか考えた。全部話したとして信じて貰えないだろう事は分かっている。

「あんた、なにやってたの」
「お寺の前に座ってたら音が聞こえてきたから」
「んじゃ、ウチの前に座って何してたの」
「んー休憩、かな」
「ふーん」

素っ気ない返事に拍子抜けする間宮にもう暫く寝てていいよ、と伝えてから少年は部屋を出て行こうとする。

「あ、あの行く前に名前教えて」
「越前リョーマっス」

立ち上がったリョーマは細身だが、脚には筋肉がついていて、スポーツが得意なんだろうと察することができた。そして、暫くすると遠くでストロークの音が聞こえてくる。その音を聞きながら横になっていると、さっきの猫が布団に潜り込み脇腹のあたりで丸まった。その温もりで間宮の瞼はだんだんと閉じて行った。



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「ねぇ、ねぇ!」


間宮は揺すられて目を覚ました。窓の外は暗く、夜になっている。テニスウェアのまま首からタオルを下げているリョーマに焦点を合わせる。

「凄いうなされてたけど、本当に大丈夫?」
「あ、」

背中や額にはびっしょりと汗をかいていて、着ているものがぺたりと張り付いていた。布団にも付いてしまっているだろう。

「ごめんなさい、私」
「何かに追われてるの?"来ないで"とか"オイヌサマ"とか言ってたけど」

間宮にドキリと緊張が走る。

「あ、いや……」
「何か隠してるの?」
「……助けてくれて話さないのはおかしいから全部話しますね、」

何かに追われて願掛けをしたら過去に来ていたこと、いま自分には身よりがないこと、お金が無いとどうしようもないので稼がないとと思っていること。話しているうちに、ぼろぼろと涙がこぼれて来る。

「……初対面の前で泣かないでしょ……」

これしかないけど、とリョーマが自分のタオルを差し出したタイミングでガラリと戸が開く。

「リョーマさん、ちょっと手伝って欲しいことがあ………」

「いや奈々子さん、これは違っ」

奈々子の両手に抱えた洗濯物が地面に落ち、リョーマさんが女の子泣かせてます、と叫びながら去って行く。すると、隣でリョーマが青い顔になり震え出した。

「親父にバレたら一生からかわれる」

間宮が声を掛ける間も無く、奈々子の後を追って部屋を飛び出して行ってしまった。

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