3.春色の君

新学期の朝、ひかりは昨日髪を乾かさずに寝たことを後悔しながらシャワーを浴びていた。早めにセットしておいた目覚ましのお陰で余裕があった事がせめてもの救いである。

髪を乾かしながら窓の外を見ると、自宅前の満開の桜がゆったりと風に揺られていた。

髪を内側に軽く巻いてから、クリーニング済みのパキッとした制服に袖を通し、全身を鏡でチェック。最後に、頬にチークを乗せた。


昨日早く寝てしまい晩御飯を食べて居なかったひかりは、チークが濃すぎると母親に頬をパフではたかれながらピザトーストを2枚もたいらげた。

準備を終え、指定のスクールバッグを手に階段を下っていると母親に呼び止められる。

「ひかりちょっと待って!」

しばらく目を瞑るように言われ、その通りにしていると唇に何か塗られている感覚がある。

「ほーら可愛くなった!早くいってらっしゃい」

引き留めたのはそっちじゃんと思いながら、こなれたローファーを履く。いって来ますと声を掛けて家を出て、桜の匂いが広がる坂道をくだった。少し走ったが予定通りの電車に乗ることができ、席に座ったひかりは鞄を抱える様にして眠ってしまった。




「起きんしゃい」

頬を叩かれる感覚で目を覚ますと降りる駅のひとつ手前だった。最寄りから長旅なので睡眠をとることが多く、いつもならイヤホンをして目覚ましをかけておくのだが、今日は忘れてしまっていた。

目を何度か擦ってひとつあくびをしてから、起こしてくれた人が銀髪だと気づいた。


「おはよ仁王」

「上向いて口開けながら寝とったき、不憫でつい」

ニヤニヤとそう言うので、んなわけあるかと渋い顔をする。

「色気なくってすみませんねぇ」


駅到着が近いアナウンスが流れたので、地面に荷物を置いて立ち上がり、スカートのひだを直しておく。

「ほい、荷物」

「あ、荷物持ちしてくれるの、機嫌良すぎ」

「ピヨ」

ひかりのバッグを持って電車を降りてくれる。仁王でも新学期は少しふわりとした気持ちを持つことにひかりは笑みがこぼれた。

そのまま改札を通り、並んで通学路を歩く。こんな風に彼女でもないのに仁王の横を歩くことが多くファンクラブの女たちに目をつけられ会話を録音された事がある。その件からひかりが色目を使っていない事が証明され、以後架け橋として利用される程には彼女たちには信用されている。



校門が近づくと、風紀委員が制服検査をしているのが見える。電柱の陰でスカートを規定の長さまで下ろしたひかりは、仁王に吹き出されたので腹パンをくらわせた。

風紀委員達の針のような目をくぐり抜け、安堵すると、掲示板の前に生徒達が集まっているのが見えた。


「クラスどうなるかな」

「写メフラゲしたからもう知っとる」

「なにそれ、つまんないの」

掲示板発表で一喜一憂するのが醍醐味でしょ!とふてるひかりを横目に、仁王はそのまま昇降口に向かって行った。

私は人だかりのある掲示板のもとへ。ものすごい喧騒と人の圧の中、やっとの思いで自分の学籍番号を探すことができた。

3−B。ここが新しいクラスである。

「あ、仁王私のバッグ持ったまま上がってっちゃった」

いいや、後で回収しよう。上履きもその中にあるが、スリッパで充分。

掲示板前でへとへとになったので、と理由をつけてエレベーターを使い2階にあがる。教室の入り口にあるプレートを辿り、私が1年間過ごす教室の前に立つ。見慣れた顔が多くありますように!と願いながらドアに手をかけた。


back


top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -