10.勉強会と君
テストが近づき、危機感のある生徒とそうでない生徒の差が現れ始める。間宮はもちろん前者であり、仁王や丸井は後者であった。
特待生である間宮は勉強の効率が良くテスト1週間前には提出物などほとんど終わっているのだが、ひかり勉強教えてくんねという丸井の一言で放課後に勉強会が開催されることになった。
テスト週間は部活停止なので思う存分勉強するしかない彼らは、赤点を回避する事に必死である。
「なぁ、ひかり、ここ分かんねぇ」
「それは単語の意味を覚えてとしか」
「プリッ」
「うーんそこはね、品詞分解をして……」
対面に座るふたりの手元が止まっているのを見てため息をつく。
「副部長の制裁回避したいんじゃないの?」
「そりゃそうだけどよぃ」
「やる気がおきん」
「そういうときは得意科目から、だよ」
間宮はふたりが出している古典のワークを閉じさせ、丸井には現代文、仁王には数学を勧めた。ふたりのシャーペンが動きはじめたのを見て、間宮が先生から追加でもらった英語の長文問題を開いたそのとき。
「たのもーう」
ドアが勢い良く開き、楽しそうな声が教室に響いた。見るとそこには笑顔の幸村と、彼につままれた切原、後ろに眉を寄せた柳生。
「やぁ、勉強は進んでいるかい?」
「えーっと、部長さんだっけ」
「俺ってそんなに認知されてないんだ、ショックー」
「幸村くんこそ、赤也のマンツーマン補習は?」
いやあ予想以上にできないもんだからイライラしちゃって、と笑う幸村に間宮は恐怖を覚えた。
「そこで私が呼ばれたんですが手に負えず」
「誰か適任いないかなー、と思ったの」
君!と私を指さす幸村くんに顔が引き攣り固まる。
「間宮さんだったら女の子だし特待生だし赤也とも仲良いし、良いかなと思ったの」
「は、はぁ」
「俺は自分の勉強がしたいから」
返事をする前に、切原を教室に放置し2人ともさっさと立ち去ってしまう。仁王が机をもう一つ持ってきて間宮の隣にくっつけ、瀕死の切原をそこに座らせた。
夕方になり、完全下校のチャイムが放送される。
「おつかれー!勉強はかどった?」
幸村が再びドアを開けると、教室にはスヤスヤ眠る3人しかいない。見回りの先生が来て、早く帰れよーと幸村に声を掛けていった。
「間宮……バックれたか」
熟睡している3人の近くに寄ると、ノートの切れ端に書いた置き手紙を見つける。
[赤也くんの英語のワーク8割方教えて、休憩させてたら寝ちゃったから、ポイントをノートにまとめたので渡してあげてください!]と丁寧な字で書いてあった。
「すばらしい!なんて使える子なんだ」
これからは赤也の補修は間宮さんに任せよう、と思いながら3人をたたき起こした。
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