緑陵高校

眼鏡の少年が渋谷の調査事務所に行ってから数日。
生徒会の人たち曰く心霊調査の専門家が、この学校にやってきたらしい。らしい、というのは、私たちはまだ彼らに会っていないから。噂話で知りました。

そして、率先して眼鏡少年が関わっているということも噂話で聞いた。
でも、私たちはいまだに生徒会控え室で大人しくしている。どうやら、あの怒鳴り散らして気絶した男性教師が調査団に難癖をつけつつ、近くに出現するらしい。危険地域だ。呼んだのは学校側なのに、これでは生徒たちもおいそれと調査団に近づかない気がする。

生徒会の人たち曰く、所長は自分たちと同年代とか、女子高生や金髪の男性御一行様とか、ますます聞き覚えのある人物たち。会えたら、いいな。会いたいんだけど、な。だって、日に日にこの場所は嫌な感じが増している。生徒や教師がケガをしたとかは聞かないけれど。

でも、実際あの神社にいた狐たちは苦しんでいた。神様の眷属様たちが、苦しむ場所なんだ、ここは。人にとっても、いい場所とは言えない。

そわそわしながら、生徒会の人たちの噂話に聞き耳をたてて過ごした。
どうやら、あの男性教師の態度に眼鏡少年も手を打ったらしい。生徒会室に見たことある器材が運ばれてくる。機械とかモニターとか。そして、やってこられました御一行様。目が合った瞬間、なんでかため息をつかれた。

「病院から消えたと心配してみれば」
「お犬様というからなんじゃそりゃと思ってみれば」
「「あなたか」」

わーい、滝川さんと谷山さんの突っ込みといただきましたー。全然うれしいことない。ついでに後ろの方で渋谷さんとリンさんの視線が突き刺さる。えぐえぐ。

「飼い主ですか?」
「いえ。ですが、知ってはいます。」
「さやっていうの」

渋谷さんが私を見る。見られる。見て、考えた。

「さやがいるというなら、やはりこの学校で起きている事は本物か。そして、厄介で危険な可能性があります」
「え、そんな引きを持つんですか?」

ちょっと渋谷さん、誤解を生むような物言いはやめてくれないかな。私たちが危険なことを呼び込んでいるんじゃないからね!

「さやが引かれているのか、怪異現象が引かれているかは不明です。しかし、僕たちが出会った中で、常に危険な現場にさやはいる。」
「危ない時は教えてくれたりしてねー、賢いんだー」

っぐ。なんだかんだで褒められてしまっている。怒れないじゃないですか。

「へ〜、そんなすごい犬だったんですか。僕たちは勝手にアニマルセラピー扱いしてましたけどね」

ま じ か


そして


や っ ぱ り か!

「ただ、放課後以外、さや?は生徒会室にいます。他の教師が保健所に連れて行こうとするので」
「…」

じっと、渋谷さんが見てくる。怖い。無言が一番怖いって初めて知った。

でも、同時にこれで一安心。だって、渋谷さんがこの危ない状況に何もできない、って想像できない。きっと何かしらの解決策を実行してくれるはず!

「では、さっそくですが安原さん」

というのが、眼鏡少年の名前らしい。聞きたくなかったけど聞いてしまったやい。

「改めてあなたに聞きたいことがあります」
「僕が言えることはあらかた伝えたと思うのですが」

はて、と眼鏡青年が首をかしげる。

「この犬がこの場所にいる時点で、調査の視点が変わります。奇妙だと思われるでしょうが、正直にありのまま教えて頂きたい。まず、この犬がいつ、どこで、どうやって、この学校にやってきたのか。そして、この犬が何に関心を示しているのか。妙に注目している事や、行動している事はないか」

とかとか、つらつら私に関する質問事項を難しい言葉で述べられました。
あ、あのう、私の行動ってそんなに重要?そして、谷川さんも滝川さんたちも、それを当たり前のように止めようとしない。安原さんが今までのあれこれを律儀に答えてくれる。

でも、お饅頭について行ったくだりはいらないと思います。

「あの、犬と今回のことに関わりが?坂内の遺書にも書いてありましたが」
「遺書にはなんと?」
「僕は犬じゃない、とだけ」
「…ここの生徒として、その遺書をどう思いますか」
「気持ちは分かります」
「そうですか」

渋谷さんが軽くため息をついた。そして、私を見下ろす。何、何を言うの。

「その自殺した生徒の遺書と、この犬の関連は低いと推測できる。ですが、実際に怪奇現象の起こった前回と前々回の調査の現場にいたのが偶然という一言では片づけにくいというのが僕の見解です。それに、心霊現象に対して異常に敏感…というか、恐怖を感じているようでした。さらに、ESPを持っている疑いもある。」

さすがに、ごまかしきれないとは思ったけど、そこまで怪しまれているとも思ってませんでした。

「さや」

ぎくっ

「君とコミュニケーションを図りたい。」

びくっ

「この場所が危険なのは、すでに君も感じているだろう」

おろおろおろ

「それと、さらにいうならば」

あ、さらに嫌な予感。

「保健所、警察に、通報されかかったと」

ダメな方向に話が流れている。

「その異常性、その便利性、その特異性を明らかにせず、ただの犬として捕まる、だと」

本音そっちですか!

「許し難い行為だと、知ってほしい」

あ、あう。

「ついでに言うと、あまりに非効率すぎる。君が僕たちを警戒していることはわかる。だが、そろそろ限界のはずだ」

淡々と、じわじわと、追い詰められている感じはする。

「何より、この異常な状態を放っておけば、いずれケガ人が出る」

そう、なんだよね。そして、それは調査チームにも言えることなんだよ。

ここは危険。

生徒にとっても

調査チームにとっても

そして、私たちにとっても。

今までは、礼美ちゃんの家でも、女子高でも、邪魔をした時以外は明確に敵意を向けられることは無かった。でも、今は違う。今はまだ、彼らより私たちの方が存在としては強い。でも、もし向こうの方が強くなったら?今でも、虎視眈々と狙われているというのに。

オオカミ様、どうしますか?私のせいで調査チームに怪しまれて、こんなことになっているんだけれど。きっと、オオカミ様だけだったらかわいいとか、もふもふとか、癒し系とかだけで!終わったと思うのです。

あ、あれ?どうしてそんなに首を傾げられるんですか。

いいの?

え?気づかれてはいけないと、怖がっていたのは私だけ?
そういえば、オオカミ様は、私と彼らが関わることを止めていない。

私が勝手に、彼らに怪しまれたらまずいと、思っていた。

私たちは、渋谷さんたちと目を合わせて。




そしたら、悲鳴が聞こえた。

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