人形の館、壁越次の日。私は庭でまどろんでいる。眠い。ひたすら眠い。時々水をまく典子さんや礼美ちゃんをながめたり、曽根さんからおにぎりもらったり。渋谷さんたちは私が庭にいてもスルーしてくれる。ありがたい。朝方出会った谷山さんにはこっちが申し訳なくなるくらいの顔で謝られた。私こそ、醜態晒してごめん。そしたら、家の中が急に騒がしくなった。というより、不穏。オオカミさまも、警戒の唸りをあげる。家の壁越しでもわかる。大勢の子供達が、探し物をしている。怖い。駆けつけたほうがいいんだろうか。オオカミさまは耳をピンと立てるだけで様子を探っているだけだ。何かあれば私と交代してでも駆けつけると思うんだけど、どうしよう。 迷っている間に滝川さんが飛び出してきた。何か布に包まれたものを抱えている。 「さやか。ちと悪いな」 滝川さんがそのまま火の準備を始める。匂いをかがなくても分かる。中身はミニーだ。燃やすんだ。滝川さんは呪文を唱えるのに集中している。でも、周りに、子供達が集まってきている。冷たい目で滝川さんのこと睨みつけているけど、近づけない、のかな?滝川さんの呪文の影響だろうか。草葉の陰からじっと見ている。どろどろとした、影。あの子たちは私が来た時と全然姿が違う。変わっている。オオカミさま、前はただ怖かったけど。今は何だか切ないよ。返事に悲しげに鳴かれた。 ミニーは、今度はきちんと灰になった。呪文を唱え終わった滝川さんが不思議そうな顔で回りを見る。どしたの?子どもたちも結局何もせず怒りながら解散したみたいだよ?具合悪い?近づいて見上げたら私に気付いたらしい。 「何もされなかったなぁ。お前さんが守ってくれたのか?」 ん?何やら誤解が生まれている?首を傾ける私に、しゃがんでくれた滝川さん。わしゃわしゃと頭を撫でてくれた。今日は逃げずに大人しく撫でられる。 「お?」 その反応は失礼な。私だってわかるよ。滝川さんたちは真剣に礼美ちゃんを助けようとしていること。私を怪しんで入るけど敵意は持っていないこと。そのまま大人しくされるがまま…待てい。 肉球や尻尾を触らせるほど気を許したわけじゃないやい! 手つきが怪しくなってきたところで文字通り尻尾まいて逃げた。 「さすがに逃げたか。さや〜、お兄さんに癒しをくれよ」 残念そうな顔をしても、乙女の体を弄んじゃ駄目だかんね!うぅ、と警戒心あらわに唸れば肩をすくめてもうしない、と降参した。ふふん、私の勝ち!…と胸を張った瞬間生暖かい目で見られた。何か悔しい。何で私が負けた感じになってるの! 「そろそろ戻るが、さやも来るか?」 結局、微妙に距離を置いて滝川さんが中に入るのについていった。滝川さん、苦笑い。あ、ちゃんと足は私用に典子さんが置いてくれたマットで拭いたよ! 書斎に入ったらびっくり、金髪さんがいた。 「あんさんが、さやどすか?ジョン・ブラウンいいます」 外国の人が何かいったー!自分の耳を信じられない。オオカミさまは尻尾を全力で降っている。金髪に飛びついたらダメだよ!おもちゃじゃないからね! オオカミ様、何故ばれた、て顔しないで…。 「始めて見た人にびっくりしたかー?」 それもあるけど、その言葉はいずこで習得なされたのでしょうか。 てゆか、この人何。周りをぐるぐる歩く。うん、危険物の匂いはしない。多分! 「興味津々だなぁ」 滝川さん、これは興味じゃなくて、本能ゆえの警戒だから。興味津々なのはオオカミ様です。 「この犬を見て何かわかるか」 犬じゃないから渋谷さん!の前に、やっぱり私渋谷さんに怪しまれている?誤魔化されてくれないよね。大丈夫じゃなかったね。でも、捕まえられそうになったら逃げるよ私。解剖やだ絶対! 「すごく、お綺麗な方ですね」 おお? 「このわんころが?」 滝川さんその発言オオカミさまに物凄く失礼。 「悪い方でないんはわかります。むしろ、綺麗すぎてちょっと怖いくらいでんがなです」 青い目に見つめられてとぎまぎ。オオカミさまのことかなー? 「ただの犬じゃないです。でも、危険ではあらしません。それは分かります」 「ほう。ただの犬じゃないというのは具体的に」 渋谷さんそれ以上問い詰めないでー!部屋の扉は…閉まってるし!逃げられないし!しかも何でかなぁ、リンさんが仁王立ちしてじっと見てる。いつもはパソコンの前にいるのに。え、囲まれた、私ピンチ? 「僕にはこれ以上のことは」 「そうか…まぁ、害はなさそうだが」 何かな?とっても嫌な予感がする。背中の毛が逆立つくらいに。 (10/70) 前へ* 目次 #次へ栞を挟む |