「それでは何か、一連の騒ぎやマクゴナガル教授の放送にも、一切気づかなかったと」
場所は移動しまして教員室。現在魔法薬学部教授に説教中。その眉間には海溝みたく深い皺が形成されております。ほかの先生からの目線も痛い痛い。
「すみませんー、ついつい没頭してしまいまして」
「ほう。我が校の一大事に気づけないほど没頭するものとは一体なんですかね」
「あー、仕事?確か双子に悪戯されたカップをひたすら磨いていたような」
「お前は…」
ぶちり、と何か大事なものが切れる音。あれ、まずい。
「学生からのその癖をいい加減にせんか!セシル・クルタロス!!」
ちなみにセブルス・スネイプは同級生。本人その事実を認めにくそうにされていますが。
「もー、Mr,スネイプもいい加減諦めるべきですよー」
「クルタロス!」
このやり取りも学生から変わらずでございます。
「はーい、反省しますー。ので、そろそろ部屋に戻らせてください。結局解決したんですよね?」
「…英雄殿のおかげでな」
「あららー、不機嫌なのはそれが理由で。そんな生徒を絞め殺さんとする顔はどうかと思いますよMr,スネイプ」
「喧しい!!」
おおう。耳にとどめが。きーんてする。
「そこまでにしましょうセブルス。この子が集中しだすと周りをシャットアウトしてしまうのは短所ですが長所でもあります。無事か確認できてよかったじゃありませんか」
なんて、フォローしてくださったのはマクゴナガル教授。ほんのりと笑みを浮かべてらっしゃるのは女子生徒が無事に戻ってきたから、と。あれ?
「もしやわたくし、皆様方に心配をおかけしていましたか?」
あれれ。一斉に溜息をつかれてしまいました。Mr,スネイプなんて話は終わった、とばかりに真っ黒のローブを翻しちゃうし。思わずじーっと見送りましたが。一切振り返ることなく教員室を出られました。
「何事もなかったのならそれでよいのです。Ms,クルタロス」
「はいー?」
「セブルスもあなたがいないと気づいた時には凄まじい顔色をしていました」
「セブが?」
「えぇ」
本人の前では呼ばない名、というか呼んだらすんごい顔で睨まれてしまいますが。思わず学生時代の呼び名が出てしまいました。
「無事でよかった。あなたの存在感のなさは今に始まったことじゃありません。すべてが終わってから、あなたがいないことに気づいたのです。今更ながら恐ろしい」
「あははー。先生も今更ですよ。影薄いのは学生時代から変わらないじゃないですか」
「だからこそ、気をつけねばならなかったのです」
こうして真剣に向き合ってくれるから、マクゴナガル先生は苦手だけど尊敬します。そして視線が生暖かい。くすぐったい。もう限界!
「先生〜」
「何です」
「お説教されるより居たたまれないのでそろそろ勘弁してほしーです」
「あら、気づきましたか。反省しなくていいとは、誰も言っていませんよMs,クルタロス」
わーお。思いっきり釘刺されちゃいました。それから改めていくつかありがたいお話を頂戴して。やっと教員室を出たころにはすっかり外は暗くなっていました。
「セブが心配、ね」
誰もいない廊下で、自分の声が響いて消える。
「やる気出ちゃうじゃない。頑張っちゃうよ私」