東洋の魔女、次元の魔女と呼ばれる漆黒の女性は私を見て言った。
「あなたの願い、叶えましょう。ただし、対価を頂くわ」
「かまわないよ。それが私の望みだから」
取引成立。その時からが、私の勝負どころとなった。
◇ ◇ ◇
小さな英雄と浚われた少女が立ち去った空間。憎い。恨めしい。引き裂きたい。八つ裂きにしたい。だが、体はもう動かぬ。頭を貫いた穴から激痛が続く。やっと見えた主を奪われ、己を死に追いやる人の子。蛇の王とまで呼ばれた己が。忌々しい。忌々しい。恨みと怒りで心が燃え上がる。だが、その火も刻一刻と消え去ろうとしている。脳を貫かれ血を流しすぎた。未だに思考できるのは魔法生物ゆえか。こつん、と誰もいないはずの地下で足音が響いた。辛うじて残っている聴覚が拾った音。
「あーらら。こいつはまずいや」
人の声、だと。いまだ誰か残っていたのか。声を出されるまで匂いにすら気づけなかった。嗅覚すら麻痺してきたか。否、声を出されても気配すら追えない。何と異様な。あの子どもの仲間か。せめて体が動けば牙で貫くか巨体で踏みつぶすかできたものを。
「蛇は苦手だ。私だって近づきたくないんだけどさ」
こつん、こつん、と音がゆっくり近づいてくる。乾いた音に水音が伴う。水辺付近。己のすぐ近く。
「はじめましてこんにちは。ちょいっとお邪魔させてもらいます」
嗅覚が何とも形容しがたい匂いを拾う。薬、か?
「改めてみてもえぐいね。魔法界の薬って。まぁ、飲むわけじゃないんだけど。
液体が己にかかる。一段と強烈な匂いが鼻につく。己に何をする。何をかけた。だが、同時に辛うじて残っていた命が消えようとしている。
もう、思考も…
「今は寝ちゃいな。あなたに死なれると困るんだ。猛毒の王よ」