「恩人ねェ…」



『…なにさ』



「別にィ」



よく分からない顔の葵
…一体何なんだ?



『私が前に失恋したときにね、泣きじゃくった私を慰めてくれたの』






告白なんてまだ考えてなかった頃、ただ翔樹君に会いたくて通った喫茶店


たまたま帰り道に見掛けた翔樹君は、幸せそうに綺麗な女の人と手を繋いで歩いていた



私の事に気付いてくれなくて、私の知らない顔で幸せそうに笑ってて

そんな姿にやるせなくなった私は目的も無いまま走った



走って走って気づいた時には、そこは知らない場所だった



元来た道も分からなくて、見つけた公園のベンチに座ってただボーッと空を見上げた





「何やってんでさァ?」



『…?』



暫くして声が聞こえて見てみると、ウチの高校の制服を着た男子が1人

なんか知ってる気もするけど……誰だっけ?




「女が1人でこんな時間にこんな所に居たら危ねェですぜ?」



心配してくれているのか、携帯の時計を見ながら言った



…そっか、道に迷ったなら携帯で誰かに迎えに来て貰えば良かったんだ




『うん…そろそろ帰るね』



心配してくれたこの人にも、これ以上迷惑は掛けられない



「方向どっち?」



『え?』



立ち上がろうとした時、不意に聞かれた


答えた後に不思議に思って聞くと、帰る方向が一緒なら途中まで送ってくれるつもりらしい



『でも悪いし……』



流石に同じ高校とはいえ、見ず知らずの人にそこまでして貰うのは気が引ける



「良いから行きやすぜ」



中々動かない私に痺れを切らしたのか、パッと手を引いてそのまま歩き出した



家の方向を聞く以外特に会話は無くて、でも変わらず手は握られたままだった



『……』



握られた手を見ると、さっきの翔樹君達を思い出す


喫茶店に行くと良く私とも笑って喋ってくれた翔樹君

でも、彼女と居るときはもっと優しそうに笑ってた
手も…ギュッて繋いでて




『……ヒックッ…う゛〜…』



「………」



気が付くと泣いてて、声を出さない様にしても無駄で


次から次へと涙が出た



そんな私に何か言うわけでも無く
ただ手を握ってゆっくり歩いた









『って事があったの』


「別に沖田君慰めて無くない?」


『何も聞かない、言わない、そのスタイルに私は凄く感謝したの!ありがたかったの!』



お掛けでスッキリしたし、少しは諦めをつけれた



『しかもだよ?沖田君私の家と全然方向違うかったのに直ぐ近くまで送ってくれたんだよ!?』


暫くしてからその事を知って、私の中で沖田君の存在がだいぶ大きくなったのだ


「そんな事いつの間にあったの?」


『えっと…1年の時の秋くらい?』


まさか翔樹君が葵のお兄ちゃんだったとはその時は思わなかったけど



「へ〜…んで沖田君その事覚えてるの?」


『知らない』



多分沖田君の普段の様子からして覚えて無いんだろうな


『でも良いの、私は覚えてるし!』




「まァ咲夜が良いなら良いんだけど、でもさ」

『?』



真剣な顔で葵は言った



「“良い人”の好きと“恋愛”の好きは違うんだからね?」




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