相澤センセイは恋を知らない。

相澤先生は今、恋をしているらしい。
しかも初めての恋、…初恋だ。
しかもその相手は俺、らしい。本人は気づいていないが。

俺と一緒にいると動悸が激しくなり、触られた所から熱くなる。冷静でいられなくなる。何故だ、お前の個性か。

これが本人から俺に言われた言葉だ。
この人も冗談言うんだな、と他人事のように考えていたのを覚えている。
しかし、冗談ではないのだと気づいた。……というか、確かめた。実際に触ってみて、手を握ってみて、脈を測ってみて。
確かに脈は速いし、触られたところが熱を持って熱いといわれ、実際に耳が赤かったので、冗談ではないんだと理解した。
これは遠回しな告白かと勘ぐったが、真剣な表情で、やはりお前の個性かと、2度も聞かれてしまった。
俺の個性は、色々細かいのだが簡単に言えば、動物に好かれる類いのもので、これに人間は含まれない。
常時発動しているようなものなので、人間にも効果があれば日常生活に支障が出ていただろう。
そう説明して、じゃあ何故なんだ、と不安そうに聞かれてしまった。
とりあえず恋をしているのだということは間違えている可能性も無くはないので、話さず、なぜなんでしょうねと答えた。
俺が知らないうちに人間にも効果が出てしまったのかと考えたが、周りはいつもと変わらなかったので、それは無いのだろう。小学校に通っていた頃は男女関係なく周りに人が集まっていて、好かれていたとは思ったが、中学生にもなってくるとそこそこの関係が増えた。高校に上がってもそれは変わっていないので、人間への影響はないと切り捨てた。

まあ、とにかく相澤先生はたった今、初めての恋をしているらしいので、初めてぐらい自分で気づいた方がいいとも思い、言わなかった。
初めてあの言葉を言われた時は確証はなかったが、話しかけてきて、世間話をして、相澤先生とよく関わるようになってから確信した。
毎回会う度に聞かれる言葉に、まだ気づかないのかと笑ってしまう。
恋に無縁すぎるのも笑いものだ。
しかもそれを本人に直接言うのが相澤先生らしい。
最初のころは何も思っていなかったが、先生と話をして、惹かれていくのが分かる。そろそろ気づいてくれないと、俺の方が我慢が出来なさそうだ。

今日もまた、いつもの様に聞かれる。

「まだ、分からないのか」
「さっぱりです。相澤先生も分からないんですか?」
「…………ああ」
「早く理由が分かるといいですね。俺はこれから移動なので、また後で話しましょう。」
「…そうだな」

今日もまだ、分からないらしい。
一番最初に告白されてから結構経つが、まだまだこの関係は続きそうだ。
恋人になれる日ははたしていつになるのか。
早く恋人という関係になりたいものだが、まだ分からないのかと聞かれる度、相澤先生から好きだと言われているようで、今の関係も悪くないと思っているので、分からないのか、という言葉が好きだと変わるまで気長に待とう。
俺の卒業までに気づけないようなら、その時は観念して俺から告白しようじゃないか。
恋だと気づかぬまま、相澤先生が俺を好きじゃなくなったとしても、告白してからまた、俺に2度目の恋をしてもらおう。最初で最後の恋になるように。

俺が立ち去る後ろ姿を、相澤先生が悲しそうに眺めていることに、俺が気付くことはなかった。

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