「腹ん中に何でも詰め込む奴には、毒殺が一番だろ」
電話越しの男の言葉に、名前は思わず眉間に皺を寄せる。
「アズーロ、私は彼を楽に死なせるつもりはないんです」
グレイ家の所有する厩舎の裏の木陰で、名前は裏社会の上司、アズーロ・ヴェネルと携帯電話でチャールズ・グレイ暗殺に関する連絡を密かに取り合っていた。
ひと気の無いここなら誰にも見られる心配はない。
「そもそも安易に毒殺といっても、私はメイドではないから簡単に彼の食器にはさわれないし、何より彼は非常に用心深い」
貴族が食事に使用する銀食器には、毒の混入を発見させる作用もあるそうだ。
食事の際に銀食器をよく使用するグレイに毒を盛るのは至難の技だった。
「じゃあ、闇討ちでも力尽くでも奴を殺せないお前は、どうやって奴を殺すつもりだ?」
「……」
目の前で木枯らしが舞い、そろそろ秋の季節も終わろうとしていた。
この冬を越すまでに、彼を殺すことができるのだろうか。
アズーロの質問に詰まっていると、名前の心中を察してか鼻で笑いながら言葉を続けた。
「フン、まぁいいさ。ハナからお前が女王の秘書武官相手に力で勝てるなんざ思っちゃいねーよ」
「では、私はどうすれば……」
何もできない悔しさに携帯電話を握る力にグッと力がこもる。
アズーロはそんな名前の気持ちを知ってか知らずか嘲笑ったように告げる。
「簡単なことだ……」
***
『あれ?君もう動けるんだ』
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