風邪を完治し復帰した名前をみるなりチャールズ・グレイはぶっきら棒に声をかけた。




いつも不遜な態度のこの男が、あんなメモを残したなんて名前には到底思えなかった。












『君が休んだせいで、あのあと大変だったんだから。体調管理くらいしっかりしてよね』


「すみません。でもグレイ伯爵が私をベッドまで運んでくださったんですよね?本当にありがとうございました」











名前はグレイの嫌味を受け流し深々と頭を下げるが、彼は特に表情を変えずにふっと視線をそらした。






『別に!倒れたままじゃ困るから運んだだけ』


「その割りには、酷い狼狽えようだったけどな」


『ゲッ!フィップス!』








グレイの同僚、チャールズ・フィップスがひょっこりと顔を出し、会話に口を挟んだ。







「突然、グレイから近侍が倒れたから手を貸してくれと連絡があったときは驚いた」


「……もしかして、あのサンドウィッチはフィップスさんが?」


「あぁ。グレイに病人でも食べられるものを作るように言われてな」


『もー!フィップスうるさいから!!』











同僚の暴露にグレイはつくづく鬱陶しそうに、フィップスの言葉を制そうとした。





「ミス名前、グレイが誰かに特別な配慮をするのはとても珍しい。ましてや、いち使用人の看病など考えられないことだ」







横でぷりぷりと腹を立てるグレイなどお構いなしに、フィップスは名前を見据えて話を続けた。




「それだけ貴女を”部下として”大切に想っているということだ。色々、大変なところもあると思うがグレイのことをよろしく頼みたい」





名前はフィップスの言葉に頷くと、グレイの方に向き直って初めての笑顔を彼に向けた。







「もちろんです。今後ともよろしくお願いします、グレイ伯爵!」













***









電話越しにも、嫌らしく下卑た笑みを浮かべているのが分かった。

その姿を想像すると虫酸が走った。











「闇討ちでも力ずくでも勝てるはずがない。そんなお前が奴を殺すのは簡単なことだ」














アズーロの言葉は名前の頭にこびりついて、まるで呪いのように離れない。










「自分に惚れさせることだ」









「素直じゃないのはお互い様ね」
続く??



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