「あっはっは!それで、デートをすることになったの?やるわねその男も」










医師らしからぬ真っ赤な口紅をつけた彼女は、端正な顔を崩して大きく笑った。


何がそんなにおかしいのか分からず、大笑いする目の前の女を名前は不服そうに窘める。






「なにがそんなにおかしいっていうのよ、マダムレッド」






美しい深紅の髪をなびかせた彼女は、マダムレッド。

派手な見た目をしているが、ロンドン王立病院で働く歴とした医師だ。







「アハハ、ごめんなさい。アンタからそんな話がきけるなんて思わなくて」

 




仇敵であるチャールズ・グレイとデートをするにあたって、男性経験が豊富そうな彼女に助言を乞おうと今回の経緯を話したら、何故か大笑いされた。









どういう由縁かは知らないが、マダムはイタリアンマフィアのアズーロと知り合いのようで、何かあった時は彼女を頼るように紹介された。

尤も、今日はマイケルの怪我を診てもらいに正式な患者の保護者として訪れたのだが。









「あなたが連れてきた、マイケルって言ったかしら?あの子の傷なら大丈夫よ。これ以上傷口が化膿しないように消毒して包帯をしておいたから5日もすれば治るわ。ただ、栄養が足りていないようだから栄養剤をのませて、また検診にきてね」




仕事モードになったマダムレッドは、眼鏡をかけてカルテに書き込みながら言った。

名前はマダムの診断を聞いてホッと胸を撫で下ろす。









「そう、ありがとうマダムレッド。またマイケルを連れて来るわ」



「そうして頂戴。……ところで、貴女はその彼のことをどう思っているの?」






眼鏡を外したマダムは好奇心を宿した紅い瞳をこちらに向けた。





名前はマダムに尋ねられた"彼"こと、チャールズ・グレイのことを思い浮かべて何故かどきりとした。







「どうって……ただの雇用主よ」



「んまーっ!つまんない回答ね」






マダムは盛大なため息を吐いて口を尖らせた。







「せっかくアンタと初めて恋バナができると思ったのに」 


「マダムレッド、分かってるでしょ。私はそういう普通の幸せは捨てたの」







父を殺した仇を討つため、イタリアンマフィアのフェッロファミリーに魂を売った女。



マダムは裏社会に身を置く名前を気にかけ、妹のように可愛がってくれる唯一の人だった。











年相応の女としての幸せを捨て、裏社会に身を沈めた少女にマダムレッドは憂いを帯びた眼差しを向けた。






「それでも私は……アンタには血生臭い復讐なんかやめて、男の子とデートして、恋をしたり普通の幸せを掴んでほしいと思っているわ」









マダムは今日のデート相手であるチャールズ・グレイその人が、名前の父親を殺した犯人であることを知らない。




こんな歪な状況を知ったら姉のような彼女はどう思うであろうか……






マダムの言葉を背中に受けながら、名前はぎゅっと唇をかみしめ、診察室を出て行った。



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