馬小屋で寝ていた下男の彼を自分の部屋で過ごさせるようになり、こうして寝る前には二人で今日あったこととかを話すようになっていた。


名前は少しずつマイケルを理解し、打ち解けることができるようになっていた。








暖炉の灯りを消し、部屋が真っ暗になった瞬間……



(コンコン)














静寂が流れる部屋の扉を何者かがノックした。


その音にマイケルと名前の二人は目をみやった。













「こんな時間に誰なの……?」












名前は横に倒していた身体を起き上げ、訝しみながら扉の前に立った。








ゆっくりと扉を開けると、そこにいたのは見知った人物だった。


















『簡単にドアを開けるなんて、不用心だね君は』




「グレイ伯爵!!……こんなところにいらっしゃるなんて何を考えているんですか?」










真夜中の訪問者は寝間着に着替えたグレイだった。

訪ねたのは彼だというのに、相変わらず陽気に皮肉を飛ばしていた。







「いくら伯爵といえど、このフロアは女性使用人用の私室エリアです。男性の、ましてや当主の貴方が来るのはよろしくないことですよ」





名前がそう窘めても彼にはあまり効かないようだった。



『?女性?使用人用、ねぇ……』といいながら、後ろのマイケルを物言いたげな笑みを浮かべて見ていた。








『ま、いーや。ごめんごめん、君にちょっと確認したいことがあって、こんな時間に来ちゃったんだ。あ、ボクがここに来たってことは他の使用人には内緒ね?』





彼は全く悪びれない様子で口元に人差し指を立てて言った。








「……それで、確認したいことってなんですか?」



名前はグレイの問いかけには答えず、不満げな顔で本題を振った。

彼は少しだけ間をおいて、話を切り出した。





『君、今度の日曜日は空いてる?非番だったと思うんだケド』


「今度の日曜日ですか?……その日は、病院に行きますが」


『……どっか悪いの?』


「いえ、私じゃなくてマイケルの。前に従僕(フットマン)に鞭で打たれた傷跡がとても痛々しくて……」





名前ではなくマイケルの不調だったと分かると、心配そうだったグレイの顔は一瞬にして興味がなさそうにヘェとだけ言った。







『でも、病院の診察なら一日中もかからないよね?午後からなら時間はとれるでしょ?』


「えぇ、まぁ……」









グレイの強引な問答に押し切られてしまい、そう答えるほかなかった。


すると彼は満足げに微笑んだ。





『じゃ、決ーまり!午後からは絶対、予定をあけといてよね!』






目的を果たしたようで踵を返そうとしたので、名前は慌ててグレイを呼び止めた。






「ちょ、ちょっと待ってください!その日は一体何があるんですか?」








仕事の予定なら予め聞いておかなければ困る。
近侍(ヴァレット)としてグレイの社交に同行するのなら色々下調べや準備が必要だし……などと逡巡していると、彼は盛大に呆れた顔をしていた。










『ええっ?鈍いなぁ。言わなきゃわかんない?デートのお誘いなんだけど』










「……は?」










デート?
誰と……誰がだ?





自分の耳に入ったことが信じられずにグレイを凝視すると、彼は何食わぬ顔で澄ました笑みを浮かべていた。








『精々、その日はめかしこんどいてよね』






「夜間飛行」
続く??




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