忌々しいあの女の言葉が頭の中で反芻される。
"例え、彼が人殺しであろうと私は彼を愛しています。"
人殺しであろうと、彼を愛しているですって?
そんなの私も同じことよ。
***
(バタン!)
乱暴に開けられた扉の音に驚いて、思わずティーカップを落としそうになった。
「まぁ、グレイ!」
振り返るとそこにいたのは不道徳な愛しい人。
「やっぱり、会いに来てくれると思ってた」
オールコック男爵夫人の言葉には反応せず、彼はズカズカと部屋に入るなり無言でレイピアを抜いた。
ヒュッ
風を切る音がしたかと思うと、レイピアの刃は男爵夫人の喉元を突き立てた。
「……グレイ。そんな危ないものはしまって。どうしてこんな酷いことをするの?」
『殺されたくなかったら、黙りなよ』
グレイは殺気を帯びたいつになく低い声で、男爵夫人の言動を制した。
それだけでも、彼が相当怒っているんだということが伺える。
自分を見下ろす冷たい灰色の瞳を観ながらオールコック男爵夫人はぼんやりと思った。
(あぁ……やっぱり私はこの男が好きだ。
例え性交でしか交じわれない関係だとしても、彼と繋がっていたい)
オールコック夫人は自分の喉元に刃を突き立てられていることもお構い無しに、レイピアの持ち主を恍惚の瞳で見つめた。
「……グレ」
『名前が妊娠した』
そんな夫人の想い届かず、グレイは残酷な言葉を口にした。
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