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「そういえば、グレイ伯爵は最近ご結婚なされたそうですな」
ファントムハイヴ邸に向かう馬車の中、
向かい側に座ったジーメンス卿は人のよさそうな顔でそう言った。
『えぇ。
といっても、まだ2週間ほどしか経っていませんけどねー』
「しかし、新婚は良いものでしょう?
妻の柔肌に溺れて、他の事が蔑ろにならないよう注意しなければなりませんなぁ」
そう言ってガハハと笑うジーメンス卿。
見かけは堅物そうに見えるこの男が、
こんな下品な話を持ち出すことに一瞬 驚いたが案外コレがこの男の本性なのかも……
『それが中々手厳しい嫁で、ボクも色々 手を焼いてるんですよ』
チラリと窓の外を見ると、雲行きが怪しくなっていた。
(これは嵐が来るかも──…)
「グレイ伯爵ほどのお人を拒む女がいるのですか!」
ジーメンス卿が心底驚いた顔で身を乗り出して話を聞いてくる。
そう、名前ってそんな女。
田舎者だし、世間知らずだし、迫れば泣くし(夫なのに)
だけど名前を想うと胸の内が温かくなって……思わず笑みがこぼれる。
『いずれ身も心も、ボクのモノにしてみせますよ』
必ずね。
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