ロンドン歓楽街のとある一角。










そこには、いつも大勢のお客で賑わう店があった。













「久しぶりですね、こちらの店舗に来られるのは」


「あぁ。偶には自社店舗の視察も必要だからな」













歳の割に落ち着いた身なりの良い少年は、いま英国で頭角を表す玩具メーカー、ファントム社のショールーム内を見回した。


ファントム社の商品は労働階級から上流階級まで、幅広い身分の顧客をターゲットにしているが、特にこの店舗は富裕層のご子息・ご令嬢向けに作られた高級感漂う内装だった。





「セバスチャン。来季に向けた新商品のディスプレイについて店長と相談がしたい、早速リストを……」




『ゲェッ!やーっぱり居たよ』





会話を遮る場違いな声に、セバスチャンと呼ばれた男と少年は驚いて振り返った。







「?!」



「その声は……グレイ伯爵」











セバスチャンはいきなり現れたグレイに恭しく頭を下げた。













『どォも。イースターでは世話になったね、ファントムハイヴ伯爵』







ファントムハイヴと呼ばれた少年に向き合うと、少年は眉をひそめた。







「何故、貴殿がこのような場所に?弊社の製品に貴殿が喜ぶようなものがあるとは思えませんが」



『ボクじゃなくて、来たがったのはコッチ』






そう言ってグレイが自分の後ろを指差すと、少年とセバスチャンは、グレイの陰に隠れていた小柄な女性の存在に気がついた。








「あ……初めまして。チャールズの妻の名前と申します」





唐突に紹介された彼女は、不遜な夫とは対照的に低い物腰で挨拶した。

手には新シリーズのビターラビットが握られていた。











「貴女がグレイ伯爵の……。伯爵がご結婚されたことは伺っておりましたが、お会いするのは初めてですね」




黒髪の男がそういうと、呆気に取られていた少年は気を持ち直してコホンと咳払いをした。






「初めまして、レディグレイ。

僕はファントム社を経営しているシエル・ファントムハイヴです。グレイ伯爵とは仕事上で時々お世話になっています」



「私は執事のセバスチャン・ミカエリスと申します」






2人の紹介を受け、名前は眼帯をした優雅な少年と長身で黒髪の美青年を交互に見比べた。



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