私の手の中には地位と権力と、この国の未来を左右できる程の力を持っていました。






だけど、それを全部捨ててしまってでも…




貴方を手に入れたいと思ったの。













***





「まぁ、名前!とっても綺麗よ。このベールは私とアルバートが結婚式の時に使ったベールなのよ。よく似合うわ」






偉大な母、ヴィクトリア女王は娘の花嫁姿を見て満足そうに微笑んだ。









純潔な体でなければベールを被ることはできない。






(自棄を起こし、グレイに抱かれた私がベールを被るなんて皮肉な話だ……)










「いい名前?フランスに嫁いだら、たくさん子を産み夫に尽くすのですよ。それが英国の繁栄に繋がるのだから」








幼い頃からずっと言われ続けてきた言葉。


グレイに片想いしていた私にその言葉はどれだけ重くのしかかったことだろう。







「陛下、名前様。馬車の準備が整いました」






音もなく現れ、淡々とした口調でジョンが告げた。








「あら、もうそんな時間?じゃあ名前、式では粗相のないようにね」





そう言って母様は私の頬にキスをする。










「……ねぇ、母様。グレイは?」









きっともう逢うこともないだろうから、最後に見たかった貴方の姿。










「さぁ?そういえば、今日は見ないわねぇ。グレイには式の準備を任せてあるから」


「そう……」








(これでいいんだ……)








私は他国に嫁ぐ身。
グレイのことはさっさと忘れてしまった方がいいんだ。








固い決意を胸に、ウェストミンスター寺院に迎う馬車に乗り込んだ。









「それでは母様、行って参ります」




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