第2夜「左耳はまだ君を覚えてる」
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あなたのことを想えば、
この悪夢から目を逸らすことができた。
パンッパンッパンッ
「いやっ!痛ッ…も、やめて…ッ」
「俺に指図するな!
穢らわしい売女のクセに!!」
(バシン!)
頬を打たれた衝撃で口の中が切れ、口内に血の味が広がった。
背中にのしかかる男の重みに合わせてベッドがギシギシと音を立てる。
息遣いの荒さから、そろそろ限界が近づいていることが伺える。
(大丈夫…もうすぐ終わる…。)
***
借金の返済を終えた私は店を辞め、娼婦から足を洗った。
ロンドンを去り、田舎で真っ当に働いていたところを、とある実業家の男に見初められプロポーズされた。
最初は、その申し出を断った。
白いあの人を忘れることができなかったからだ。
けれど、彼はどれほど待っても再び私の前に姿を現すことはなかった。
気が付けば、真っ白な髪の彼と過ごしたあの甘い一夜から2年の歳月が流れていた。
とうとう熱意に負け、その実業家の男と結婚した。
白い彼のことは心に引っかかったままだけれど、
ようやく自分も人並みの幸せを掴むことができるーーー……そう、思っていた。
***
ビュルルルッ
「はぁっはぁっはぁッ…」
白濁した全てを注ぎ込むと、満足したのか男は部屋を出て行った。
皺クシャになったベッドの上に一人取り残され、叩かれた右頬がジンジンと疼いた。
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