夫が優しかったのも最初だけだった。
どこからか妻が娼婦だったという噂を聞きつけた途端、汚いモノを見るような目で私を扱うようになった。
次第に侮蔑の言葉を浴びせるようになり、夜も乱暴に抱いてくるようになった。
娼婦は、一生 娼婦。
幸せを夢見ることなど叶わない。
「いったぁ……」
夫である男に強く掴まれていた腕が、お風呂のお湯にズキンと染みた。
毎日のように夫に暴言を吐かれ、女としての尊厳を失われるような劣悪な環境だとしても、不特定多数の男に身体を開いていたあの頃よりはマシだ。
それに…
瞼を閉じれば、この悪夢から解放され
あのひとの温もりだけが残った。
(確か…ここを、こう…)
自らの指を、下腹部にそっと這わせる。
そうすると、その部分は待っていたかのように指の侵入を受け入れた。
「んっ…」
自分の動きに合わせて浴槽の水が揺れた。
2年前のあの日、彼が自分にしてくれたことを再現するように自身の指を動かした。
別の男と結婚しても、片時も彼のことを忘れたことなどなかった。
名前を聞かなかったことが未だに悔やまれる。
一体どんな名前なんだろう。
きっと素敵な名前ね。
彼の名前を声に出して呟いてみたい。
そして、あの焦れったい口調で苛めてほしい。
美しく輝く白い髪に指を絡めたい。
また……触ってほしい。
(あっあっ、ンっ……駄目、指なんかじゃ……)
太さも熱も、何もかもあの人には及ばない。
彼に抱かれて、生まれて初めて女としての悦びを知ったのだから。
「何をしている」
「!!」
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