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麦わら一味が甲板に集まり、パンクハザードでゆっくり話せなかった内容をキャプテンが伝える。
同盟と四皇を倒すことをあの時居なかった仲間に伝えたが、嫌がっているのはウソップ君とナミとチョッパー君だけだ。
サンジ君に至っては、キャプテンにルフィ君のことについて改めて忠告までしてくれている。本当に面白い一味だ。

その後もキャプテンがジョーカーについて、そして一応この同盟の目的でもある四皇カイドウについて話す。
途中でサンジ君が私とナミとロビンさんにだけ紅茶をくれて、私は小さくお礼を言いながらも喉を潤した。
男性陣にはお水の入ったコップが配られている。どうやらサンジ君は変わらず女尊男卑らしい。

キャプテンが話し終えると、麦わら一味はバラバラと解散し、私はキャプテンと甲板に残って端っこに座っていた。

「なあなあ、ナマエの能力ってトラ男と何か関係あんのか」

私たちの前にルフィ君がしゃがみ込んで問いかけてきた。
キャプテンはため息をつくと、私のことを親指で指差す。

「おれの能力圏内に入ると、おれもコイツも基礎能力が向上する」
「うーん?」
「…まあ、簡単に言えば揃ってりゃ強くなる」
「おお!そういうことか!!不思議な実だなー。でもナマエだけでも結構強そうだな!まさか覇気使えるようになってるなんてなー」

ルフィ君につられて私も笑うと、キャプテンが私の頭の上に手を乗せて帽子を深くかぶらされた。

「わわっ」
「単体で戦えば、おれもコイツも能力を使えば体力が削られるが、互いに居ればほぼ削られねェ。つまり弱点がなくなるってこと…だからコイツだけ連れてきた」
「すげェ!」

「はっはーん?あたしが見る限りだと、能力だけで一緒に居るとは見えないんだけど?」
「…」

カツカツとヒールの音を甲板に響かせてやってきたナミが、再び私たちの前にやってきた。
ニヤニヤしながら私とキャプテンを見ているところを見れば、何となく察している感じだ。
先ほどのロビンさんといい、私とキャプテンの関係性についてどうも気になっている…というより興味深々だ。

それでも、ナミの言葉に首を傾げるルフィ君に私は苦笑した。

「ん?他ってなんだ?」
「ルフィにはまだちょーっと分からないわねー。ね?トラ男とナマエ?」
「…」

私とキャプテンで顔を見合わせてどうしようか考えたが、なんだか照れ臭くなった私は、すぐに立ち上がってキャプテンから離れるように船の裏側へ向かう。
手摺りを掴みながらしゃがみ込み、大海原を眺めているとコツコツと足音が聞こえてきてそちらに目をやればゾロ君の姿。
両腕を組んで目線は私の腰にある刀だ。

「その刀、妖刀だな」
「さすがゾロ君。これは私を修行してくれた先生がくれた物でね、キャプテンの鬼哭と相性がいいみたい」

刀を差し出してみるとゾロ君は私の手から刀を受け取り、スラッと刀身を抜き出してまじまじと見る。
周りに刀に興味を持ったのはキャプテンぐらいだったから、他の人にこうして眺められるのも新鮮だ。

「お前もトラ男と同じで斬っても血を出さないのか?」
「私がキャプテンみたいに出血もなく斬れるのはキャプテンの“ROOM”内だけ」
「へェ…。つか、お前男のあーいう姿見たことねェってトラ男とか仲間の見たことあんだろ」
「?あるよ?」
「なんであんな恥ずかしがってんだよ」
「だってあのパンツ…ら、ラインがすごい出るじゃん…」

思い出しただけでも卑猥だ。
よくナミもロビンさんも平気で居られるよ。
しかも、パンツだけで上もアロハシャツ一枚だけだし…一体どういうファッションセンスであの格好に決めたんだ。
到底理解できない。いや、したくない。

刀を返されて、私の隣にドサっと腰を下ろすとゾロ君は海の先を眺める。
私も一緒になって眺めてみるが…何の用だろうか。
二人の中に流れる気まずい沈黙を先に破ったのはゾロ君の方だった。

「お前」
「?」
「トラ男とは船長とクルー以上の関係か?」

麦わら一味は私とキャプテンの関係がどうも気になるらしい。そういう話が気になる年頃か?

私はゾロ君の方を見ると、へらっと笑った。

「クルーってだけで、ここまで来ると思う?」
「だよな」
「うん。キャプテンにメロメロですから、私は」
「まあ、確かにいい男の部類に入るんだろうな」

フワッと、帽子が頭の上から浮いたと思えばゾロ君が帽子を掴んでいた。

「これ、トラ男が二年前にかぶってた帽子か?」
「うん、もらったの。私、強くなる為に一回船を降りて修行したんだ。その時に」
「お前一人で??」
「みんなやることあったからね。私のワガママで航海を止めたらダメでしょ?」

驚いたように声を上げて、ゾロ君は両手を後ろについて今度は空を見上げた。
空は雲一つない快晴で、遠くのところで鳥が鳴いている。

私も空を見上げた瞬間、覗き込む二つの鋭い眼光に射抜かれた。

「きゃ、キャプテン」
「どこ行ったのかと思えば、こんなとこで逢引か?」
「ちょっ、何言うんですか!」

慌てて立ち上がると、キャプテンが片手で私の両頬を鷲掴みにした。結構な力だ。

「い、いひゃいれふ」
「ウロウロすんな」
「ひゅいまへん…」
「トラ男」

キャプテンの顔の方は無理やり向かされていて、ゾロ君の方を見ようとしたら私の頬を掴む手に力が入り、顔を動かすことは出来なかった。

「男の嫉妬は醜いぞ」
「嫉妬じゃねェ。飼い犬が野犬に襲われねェように見張る必要があるからな」
「へーへー、そうかよ。じゃあ、野犬は大人しく筋トレでもしてるからよ」

何だろうか。キャプテンもゾロ君も声が低くなっている気がするのだけど気のせいか。
恐怖を感じて先ほどからキャプテンの顎髭をじっと見つめることしかできていない。
二人の雰囲気が何かピリピリしている気がする。
今にもお互いに刀を抜きそうな感じがしたが、何事もなくゾロ君は私たちの横を通り過ぎると階段を降りていく。

その背中を確認し、キャプテンは周りを見渡した後に私を壁に押し付けた。

「口開けろ」
「え、んんむっ!」

すでに両頬掴まれてるせいで私の口は貴方の手によって、無理やり開いてます!

私の両手を壁に押しつけて、少し屈んだキャプテンに噛み付かれるように唇を塞がれる。
しかも、舌をしっかり入れ込んで私の舌を絡めとる。
私は蕩けるようなキスのせいで、ぼーっとしながら考えた。

今日はやけに熱烈なキスが多いな…。
まあ、私もキスしたいからいいのだけど、体に熱が籠るから少し困る。
でもそれはキャプテンも同じだろうに。
ああ…私たち、欲求不満なのかもしれない。

しかも、これから本拠地に乗り込もうとしていて生命の危機を感じているのだから人間の本能で求めてしまっているのかも。

口内を犯しつくすようなキスは私の呼吸だけでなく、力を奪い取り、ズルズルと床座り込み、キャプテンも一緒に両膝を床についてキスが続行された。

「ん…はっ、はぁっ!ん」

キャプテンの手が胸にいかない辺り、理性は残っているようだがやはりキャプテンのキスは何だか…私に縋るような…。

そこで私は先ほどのキャプテンの言葉を思い出した。

ドフラミンゴとすでに話したと。キャプテン一人で。
怒りや不安や緊張感やら、色んな感情が今キャプテンの中で渦巻いているのでは。

私は両腕をキャプテンの背中に回すと、ギュッと抱き締めるように腕に力を入れた。
少しでも、キャプテンが安心出来る様に。

「はっ、はぁ、はぁっ」
「っ…はぁ…悪ィ」
「い、いえ…キャプテン」

額をこつんと当てて、互いの荒い吐息がぶつけ合いながら私はしっかりとキャプテンを見た。

「私はずっとキャプテンについてますから」
「…ナマエ…」
「好きです、ロー。愛してます」

そう言いながらキャプテンの唇を啄んで、ゆっくりと体を離す。
私の横に座り込むと、キャプテンはため息をついた。

「全て終わったら抱き潰していいか」
「ダメって言ってもするじゃないですか」
「くくく。よく分かってんじゃねェか」

床に手をついて遠い海を眺めているキャプテンの表情はやっぱり緊張しているみたいで、床に置かれたキャプテンの手にそっと重ねて手を置いた。

「置いてかないで下さいね」
「ああ」
「何があっても」
「分かってる」
「おーい、トラ男とナマエ!メシだぞ!」

暫く黙ってオレンジ色に輝く夕陽の海を眺めていたが、ルフィ君の大きな声が聞こえてきて私たちは立ち上がった。

「はーい!今行きまーす!さ、キャプテン、腹ごしらえしましょう。腹が減っては戦はできませんよ!」
「お前はほんと能天気だな」






夕食はサンジ君が作ったコース料理のようなお洒落な食事であった。
ハートのご飯も美味しかったけど、サンジ君の料理は何だかレストランのような雰囲気で出される。

「そういや、トラ男たちはどこで寝る?」

ルフィ君がお肉に噛みつきながら合間で聞いてきた。
口をモゴモゴさせながら話すから口内が丸見えだ。飲み込んでから話して欲しいところ。

「甲板で寝る」
「私もキャプテンと甲板で」
「ダメよ!女の子が外で寝るなんて。あたしたちの部屋で寝ればいいじゃない」

ナミの申し出に他のみんなも頷いて、それでも私はキャプテンのところで寝ると言い張り、結局は今晩だけ甲板で寝ることになった。
この様子だと、明日以降も粘れば甲板で寝られるかもしれない。
せっかくの申し出だが、私はキャプテンの側についていたい。

夕食も終わり、波も静かな夜に階段の上の手すりに背中を預けてキャプテンの隣に座った。
すぐ下ではシーザーが寝ていて、チョッパー君とウソップ君が武器を構えながらドフラミンゴの刺客が来るのではないかとウロウロしている。
その様子を眺めていると、目を閉じていたキャプテンが目を開けて私の方を見てきた。

「寝ろ」
「うわっ」

頭を掴まれてキャプテンの膝の上に乗せられ、まさかの膝枕をしてくれている。これでは逆に眠れない。
そう思っていたのに、髪の毛を溶かすようにキャプテンの手が私の頭を撫でている間に、私の意識は微睡んでいく。

ドレスローザまで、何もありませんように…。

そう願いながら、私は眠りに落ちていった。








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