金色の女神 番外編
迷子  [ 9/17 ]




ソルジャーフロアにあるトレーニングルームで2nd達がトレーニングを行っていた。
昼の時間になりトレーニングルームを出ていくと、3rd達が数名集まっていた。

「何の騒ぎだろ」

ザックスと顔を合わせてその中心へ足を踏み入れた。

「どったの?」
「あ!ザックスさん、名前さん。それが子供が迷い込んでて…」
「子ども?」

その3rdの中心に確かに10歳くらいの男の子が膝を抱えて3rd達を睨みつけている。

「俺に触んな!3rdのくせに!」
「…なら俺は触っていー?2ndだし」
「2ndもダメだ!」

なんつークソガキ。
名前はザックスを押しのけて、その子どもを無理やり抱き上げた。

「な!やめろ!…あれ?女?」
「どこの子なの?」
「…わかんない。親父探してる」

他のソルジャーでは全く見向きもしなかった子どもは名前に抱かれて大人しくなっている。
いや、名前の背中に手を回して胸に顔をうめている。

「…少年やるな…」
「何言ってるのザックス。うーん…困ったなあ」
「女、俺は腹が減った」
「…女じゃないわよ。名前お姉さん!口に気をつけなさい」

ザックスはニッと笑い、少年に手を差し伸べた。

「俺はザックス!」
「…名前以外は暑苦しい奴ばっかだな、ソルジャーって」

少年はザックスをちらりと見て、再び名前の胸元に顔をうめた。

「…じゃあ、社食に連れて行くしかないか…ソルジャーフロアに居たってことはソルジャーかもしれないし」
「俺1stに会いたい」
「1st様達は違うフロアに居るの!我がままいうんじゃないわよ」

名前って意外と子どもに厳しいな。
ザックスは笑ってエレベーターに向かう名前に続いた。

「にしても、お前名前からいい加減離れろよ」
「嫌だ」
「歩けるんだろ?」
「ここがいい」
「…名前の彼氏はこわいんだぞー」
「ザックスが彼氏なのか?」
「俺のわけっ」
「そうだよ。ザックスが私の彼氏」

そう言って少年を下ろした。
すると少年は不満そうにザックスを見上げた。

「お前と名前じゃ釣り合わない」
「だー!こいつー!」
「ザックス、怒らない怒らない」

社食に着くと、少年はさっさと席に座りザックスに指を指した。

「お前名前の彼氏なんだろ?まさか彼女の財布を出すわけないよな?」
「はあ?!そもそも俺は!」
「ザックスー、お財布渡すから私とこの子の分お願いしていい?ね?」

小首を傾げて綺麗な顔して微笑まれると、さすがの俺も何も言えない。
いや、綺麗だな…抱きしめたいななんて思うけど、実行するわけない。
俺だってまだ命は惜しい。

ザックスは溜息をついて、名前からお財布を受け取り食事を買いに行った。

「名前、食事来るまで膝の上に居ていい?」
「…甘えん坊だね」
「お母さんと…あまりこうしたことなくて…温もりを感じてたいんだ…」

そんなことを言われて断る女性が居るだろうか。
少年の健気な言い方に両手を広げて抱き上げた。

「可愛そうに…」

再び名前の胸元に顔をうめた。

「あー!!またそんな恰好で!」
「煩いなザックス。名前の彼氏なんだからって」

「誰の彼氏だって?」

ザックスの顔が青ざめていく。
名前も口をあんぐり開けてその姿を眺めた。
少年だけが目をキラキラさせてその体勢のまま「すげえ…ほんものだ…」と見上げていた。

「セフィロス!こ、これは…」
「そのガキはなんだ」

座席にジェネシスとアンジールも座りだす。
料理を持ってきたザックスもアンジールの隣に座り、セフィロスも名前の隣に腰掛けた。

「ほら、ご飯きたよ」
「膝の上で食べていい?」
「ダメだ」

名前からの返答ではなく、隣に居る不機嫌そうに見てくるセフィロスからだ。
セフィロスの言うことには何も生意気なことを言わずに、「はい!」とか言って素直に名前の膝から降りて、反対の席に座る。

「会いたがってた1stの三人だよ」
「すげえ…なんで名前はザックスを彼氏に選んだんだ?こんなかっこいい男がいっぱい居んのに!」
「…」

隣から翡翠色の瞳がじーっと見てくるが、視線を逸らして、ザックスと目があった。
するとザックスは溜息をついて首を振った。

「俺は名前の彼氏じゃねえし」
「は?じゃあ、名前は恋人居ないってこと?だって彼氏こえーやつってザックス言ってたじゃん」
「こえーよ!だからお前もあんま名前にべたべたすんなって!」

名前はパスタを頬張りながら、少年に食事を進めさせた。

「いいから食べなさい」
「一体誰なんだよ!」
「誰でもいいでしょーが!少年にはまだ早すぎます!」

漸く食事を始めた少年に溜息をついた。

「それで、その少年はなんなんだ」

アンジールが食事の合間にザックスに問いかけた。

「なんかソルジャーフロアに迷い込んだらしい。父親がソルジャーだったらここで飯食えば分かるかなって」
「ここに父親居そうか?」

アンジールが優しく少年に問いかける。
ああ、アンジールに任せれば安心そうだな。

「…うーん…居ないかなぁ」
「ガキ、探す気あんのか」

ジェネシスがイライラしながら口を開いた。
うん、ジェネシスは子供嫌いそうだ。

「なあ、三人のサインくれよ!」
「絶対嫌だね。こんなクソガキさっさと受付に引き渡して来い」
「うーん…そうですよねぇ…」

ジェネシスの意見に名前も少し賛同しようとした。
しかし、自分で引き受けたのにさっさと受付に頼むのもどうかと…。

「やっぱ私とザックスで探すよ」
「だよなー。俺らで探してやるって約束しちったしな」
「…お前はほんと…余計なことに首突っ込む…」

名前の隣から盛大な溜息とともに呆れた声で言われた。
そっちに視線をやるとセフィロスの食事セットの上に一口ケーキが見える。
甘いものが嫌いな目の前の人はきっと残す気だろう。

「それ、食べないならくれません?」
「ああ」

お皿ごとくれるのかと思いきや、セフィロスのフォークでそのケーキを突き刺した。

「ほら」
「…」

予想外の行動に思わず黙る。
さっさと口を開けろと言わんばかりにケーキの刺さったフォークを差し出してくる。
手を出してフォークを取ろうとするとその手を掴まれた。

「口開けろ」
「じ、自分で食べます!」

キスをする時にも言われる言葉に思わず顔が赤くなる。

「も、もういいです」
「強情だな」
「わわっ!」

掴まれていた腕を引っ張られて無理やり口に入れられる。
そのフォークは口の中の舌を優しく絡まれて、ゆっくりと離れていった。
なんだかまるでキスをされているかのようなフォークの動きに、顔を赤くしてセフィロスを睨みつけた。

「なんだ、食べさせてやったのに不満か?」
「いーえ!別に不満じゃありません!」

ぷいっと反対を見たら目をまん丸くして少年と目が合った。

「名前すげえ…英雄と間接チューした!!」
「ななっ!!」

名前が驚きに目を見開く。そして羞恥に顔が再び赤くなっていく。
目の前に座っていたジェネシスとアンジールとザックスが噴出した。

「くくく、間接キスか」
「こ、このマセガキ!」
「な、なんだよ名前!すげえ名誉なことじゃねえか!」

「間接どころかしょっちゅう」
「ジェネシスさん!」

すぐに少年の耳を両手で塞いだ。
少年は首を傾げて名前を見上げた。

「ははーん、名前のその反応…名前は処女とみた!」
「何てこと言うの!!」

今度は少年の頬を片手でつかんだ。

「もう黙ろうか?坊ちゃん」
「い、いひゃい!」

「処女だってよ、セフィロス」
「くくく、それは何か月も前に俺が」

「もう行くよ!」

とんでもない会話をしようとしている1st達から逃げる様に少年とザックスの腕を掴んで社食を後にした。




ソルジャーフロアのソファに座りながら通るソルジャー達を眺めていく。

「どう?父親」
「うーん…」
「探す気あんのか?」
「あるよ!…ザックスって腹筋割れてるの?」

少年の興味は別にうつったようだ。
ザックスは無駄にサスペンダーを外してシャツを脱いだ。

「どうだ!」
「すげえ…めっちゃかっけー!!」
「だろだろ?」
「名前は?」

割れてるわけないだろ。
しかし、馬鹿にされているようで腹が立ったのでサスペンダーを外し、シャツを捲って腹部を出した。

「割れてないけど硬いよ!」
「どれどれー?あ!ほんとだ!ん?ここ赤いよ?」
「ん?…」

ザックスがあわあわしているのを横目に、黙ってシャツを直した。
あいつこんなとこにもキスマークつけてたのか。
名前はニッコリと笑い少年の頭に手をおいた。

「すごい腹筋だったでしょ?」
「キスマークつけてんだから処女じゃないのかー」
「もうやだこのガキ!ザックスだけで探して!」
「うわーん!名前行かないでよー!」

今度は泣いて足元に縋りついてくる。
名前は溜息をついて、少年を抱き上げた。

「じゃあ、真面目に探して」
「実は親父はここじゃないんだ」
「…あんたねぇ…」
「帰る前に英雄のサインが欲しい!」

先程から突拍子のない子どもの行動と発言に、名前とザックスは顔を見合わせて溜息をついた。

「あのねぇ…そんなほいほい会える人でもないし」
「でも間接チューした仲だろ?!名前が頼めば」
「嫌よ、頼みません」
「じゃあ、このキスマーク晒してやる―!!」
「あ!こらやめい!」

少年は名前を押し倒し、馬乗りになりシャツを捲り上げようとする。
ザックスは慌てて周りをキョロキョロした。

「少年!マジやめろ!こんなとこ見られたら殺される!」

シャツの隙間から確かにキスマークがあちこちに見える。
セフィロスすげえつけてるな…
なんてザックスまで思ってしまったが、エレベーターから降りてきた人物に青ざめた。

「あ、セフィロス落ち着けよ」
「うわあ!!」

少年が勢いよく首根っこを掴まれ、アンジールのところへ投げ飛ばされた。

「ガキ、こいつの相手を知りたがってたな」
「せ、セフィロス」
「俺だ」

少年の目がおもしろいほど見開く。
そして、すぐに瞳が輝いた。

「サインください!」
「断る」
「名前のおっぱいに顔うめたの謝るから!」
「…」
「ちょっと!相手は子供!」

今にもぶんなぐりそうなセフィロスの腕を慌てて名前が掴んだ。

「名前のすべすべなお腹も触ったの謝るから!」
「…」
「お、お前そろそろ黙った方がいいぞ」

アンジールですら焦って少年の口を塞いだ。
名前は腕だけでは押さえきれなくて、セフィロスの腹部に両手を回した。

「落ち着いてってば!」
「お前がガキに体を許し過ぎだ」
「そんな言い方やめて!」
「父親は化学部門に居る。ザックス、さっさとガキを連れていけ」

そして父親のもとへ届け迷子事件は幕を閉じた。


  
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