金色の女神 番外編
潜入調査・清掃員  [ 17/17 ]



「清掃員?」
「ああ」

受付嬢の体験が終われば今度は清掃員だって?
タークスはいつから何でも屋に…。

「今回の任務は清掃員の行動の把握だ。盗聴を仕掛けている奴がいないか、調査だな」
「それタークスがやる必要あるの?」
「依頼は依頼だ」
「これが制服です」

いつものようにツォンがさわやかに差し出してくる。
今回は割烹着のような服装で、茶色のウイッグが渡される。

「…前回のようにあの人にバレたとしても、任務は遂行しろ。期間は2日間」
「りょうーかい」

受付嬢の時になぜかバレてしまったが特に邪魔されることもなく任務は完了した。
今回ももしも、そういったことになったとしてもあくまでも任務は遂行させろと。

「じゃあ、着替えてきます」

今度の服はセフィロスの怒るような服ではないし、どちらかと言うと馬鹿にされるかもしれない。
割烹着を着て三角巾を頭につけると思わず吹き出した。
あまりにも馴染んでいたからである。

また新しい職場体験のようなものに心浮かれながら、説明を受けにサービス課フロアにある清掃員待機所へ向かう。
中へはいると気前のよさそうなおばちゃんが迎え入れてくれる。

「本日より配属されたリリーです」
「よろしくよろしく。適当に床を磨いて、ゴミを回収してくればいいから。とりあえず…大変なフロアで慣れてもらおうかね」

掃除に大変なフロアとかあるのか。
怪訝そうな顔をしていたからか、おばちゃんは笑ってバシバシと背中を叩いてくる。

「ソルジャーフロアだよ。泥汚れもそうだけど、男だらけのフロアだからね、時間かかるよ」
「あ、はい」

いきなり身バレしそうな、危ういフロアだよ。

とりあえず、カードキーを受け取りいつも待機しているフロアに降り立つ。
定時の過ぎた時間であったため閑散としていたが、いつも賑わっているソファには雑談を楽しんでいる1st三人組の姿。

そうだよね。そうなるよね。

だいたい予想はしていた。
定時を過ぎてだいたいはここで少し話してから三人は帰っていくのだ。
なぜ自分達の執務室のあるフロアでしないのか不思議だが、ここに居るとたまにおもしろい情報が聞こえるからだと言われたことがある。
モップで床を磨きながら廊下を拭いていく。

「この間の任務はどうだったんだ」
「モルボルの大量発生」
「最悪だなそれ、メンバーは?」
「2ndが三名、3rdも三名だった」
「名前も居たのか?」
「タークスの任務に行ってたからな、名前は居なかった」

楽しそうに話をする三人の会話が嫌でも耳に入ってしまう。
そして、先にゴミを回収しようとゴミ箱を探した。

は!三人の近くにもゴミ箱…

名前は溜息をつきながら、近づいた。

「失礼します。ゴミの回収をしてもよろしいですか?」
「ああ、すまない」

アンジールが丁寧にも返答してくれて、ジェネシスは見もしなかったが、やはりセフィロスが私の声に反応してじっと見つめる。
セフィロスと目を合わせないようにゴミ袋を取り出し、回収しようとして三角巾を奪われた。

「わあ!な、何するんですか!」
「随分と若い清掃員だな」
「セフィロス何してるんだ…邪魔するんじゃない」

アンジールの諭した声に名前は微笑んだ。
さすがアンジール。

しかし、そんなアンジールの制止など聞く耳を持たず、顔を顰めて後頭部に手を差し込まれた。
髪の中で何かを探すように動くセフィロスの手を掴んだ。

「な、何を」
「正体をあいつらに教えてやろうと」
「わ!あ!ちょっと!」

探していたもの、それはウイッグを固定していたピンだ。
ピンを引き抜かれウイッグを奪われると、金色の長い髪がサラリと流れ落ちた。
アンジールとジェネシスは唖然としてその姿を見た。

「名前…何してるんだ…」
「それはなんか…お笑いの特訓か…」
「違います!タークスの潜入調査中です!邪魔しないで返して下さい!セフィロスさん!」

今度は腹を抱えて爆笑し始める1st達に殺意を覚える。
肩を揺らして笑っているセフィロスからウィッグを奪い取り、セフィロスを睨んだ。

「掃除の邪魔しないでください!」
「その恰好似合っているな」
「ば、馬鹿にして!」

髪の毛をしっかりまとめて再びウィッグをかぶり固定する。
セフィロスの手から三角巾を奪おうと手を伸ばすが上にあげられてしまう。

「…邪魔しないでください」
「取ってみろ、清掃員」
「たかが清掃員にその高さは届きません!」

油断したセフィロスの腕から床を蹴り上げて飛び上がると、その手から奪い取る。

「清掃員のくせにいい動きだ」
「ソルジャーになれるぞ」
「くくく、だそうだ」

茶化すような三人を無視をし、ゴミ袋をまとめて持ち上げた。

「では、失礼します」

丁寧に頭を下げて立ち去り、エレベーターに乗り込んだ。
しかし、そのエレベーターになぜか3人も乗り込んできたのだ。

「最近のタークスは何でもやるんだな」
「まあ、だからこそソルジャーより給料がいいって言われるんだろ?」
「その割にはこいつの給料は笑えるぐらい低かったけどな」

勝手に展開される会話に名前は黙って三人に背中を向けていた。
セフィロスが勝手に人の給料事情を二人に言ったことには少し腹が立ったが。

「名前、ちょっとこっち向け」
「…」

「たかが清掃員が反抗的な態度だな」
「セフィロス、ジェネシス。名前は今、一応タークスの任務中だ。邪魔するな」

ああ。やっぱりアンジールさんが一番理解してくれる。
あまりに嬉しくて、後ろを振り返ってアンジールに向かって頭を下げて微笑んだ。

「ありがとうございます。では、失礼します」




二日目の朝。
今日で終わりというのに再びソルジャーフロアの清掃を任された。
しかも、まさかの昼間だ。

「失礼しますね」

そう言いながら再びそのフロアに降り立つ。
昨日と同じ様にフロアの床を丹念に磨きながら、ゴミ箱の回収を行う。
もちろん盗聴器などの確認も行うが、その存在はない。

もはや普通に請け負ったが、タークスの仕事ではない気がする。
いや、何でもやるからこそタークスなのか?
いやいや、こんなのタークスの制服のままでもできる気がする。
いやいやいや、むしろ私がやる必要ある?新人でよくない?

………仕事しよう。

昨日は1st三人組の居たそのテーブルには、ザックスと友人の2nd達が雑談している。
ゴミ箱を漁りながら回収を始める。
今日の訓練中のおもしろい話やら女の話しやらの話しが飛び交う中、自分の名前が出てきてつい耳を傾けた。

「あれ?今日そういえば名前居なくね?」
「タークスだろ」
「そういやこの間あいつの彼氏さんとの任務だったんだけどよ」
「マジ?いいなー」
「いや、マジかっこいいよな。ソルジャー全員の憧れ!」
「あの人になら抱かれてもいい!」
「俺も!つか抱かれたい!」

こいつら頭大丈夫か。
私の居ないところで盛り上がっている男どもに持っているゴミをぶちまけたくなる。
嫉妬ではない。ただただキモいと思っているだけだ。
断じて嫉妬ではない。

「まあ、名前しか見えてないから一ミリも可能性はないけどな」

ザックスが言うと他の2nd達も大きく頷いている。

「なんだかんだお似合いだよな」
「まあ、美男美女だし」
「見てても目の保養だよな、あの二人は」
「この間は廊下で笑いながら晩御飯の献立話しててよー。あの人も笑っててさー」
「あ、分かる。任務中には見られないあの人の笑顔な」
「俺なんか食堂でニヤニヤしながら名前にケーキをあーんしてるとこ見ちゃったぜ」
「俺もそれ見たことある!でも、俺んなかではあの人が優しそうに名前の髪を耳にかけてやったところが一番だな」
「はー、あの人かっこいいなー…そんなことサラッとしちゃうから女にモテるのか」
「いやいやお前のルックスでやったら目に毒なだけだ」
「ひでぇ!」

……はーやめてほしい。
てか、私とセフィロスがいるところめっちゃ見られてた!

顔が熱くなってきた。いや、顔だけじゃない。
最早恥ずかしくて全身が熱を持ったかのように熱い。

ゴミを回収して素早くその場を立ち去る。

話しだけ聞いてるとただのバカップルだ。
…気を付けよう。




こうして清掃員の任務は終了した。



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