金色の女神 番外編
潜入調査・受付嬢  [ 12/17 ]



更衣室で昨日に続いて着替えを済ます。
鏡で見て胸元が寂しく思い、静かに下着にパッドを詰めた。
慣れない化粧もして、ヒールを鳴らしてサービス課へ。
サービス課の統括へ挨拶すると、化粧の濃い統括が煙草をふかしながら書類から顔を上げて言った。

「今日は受付だよ。受付に行って」
「了解しました」

さっさと受付に行き、二つあるうちの一つに座る。

うーん…エントランスにずっと居るのも落ち着かないな。
もう一人はまだ来ないし。

すると徐々にソルジャー達が出社していく。

「お疲れさんだぞ、と」
「…」
「化粧しても…ん?…お前…詰めたな、と」
「…レノ。任務の邪魔するならこの任務をあんたに押し付けるよ」
「じゃあ、任務頑張れよ、と。詐欺パイ女」

ああ。ここがエントランスじゃなければすぐにでも銃をぶっ放していたのに。

「あー!新しい受付の姉ちゃん!」

レノがエレベーターに乗って消えたかと思えば、今度はザックスと2ndの連中だ。

「おはようございます」
「綺麗な姉ちゃんだなー。なな、番号教えて!」
「おいおい、ザックス抜け駆けやめろよ」
「名前なんて言うの?」
「昼飯一緒に食わない?ごちそうするぞ」
「ソルジャーフロア案内してやるから一緒に来ない?」

こいつら朝からよく喋るな。
名前は冷笑し、頭を下げた。

「本日もしっかり訓練してください」
「お!また来るな!」
「じゃあなー!」

煩いのが立ち去ったと思えば、正面玄関から現れるはずのない人物たち。
いつもは地下駐車場から直接上がっていくはずなのに、茶髪にピアスに赤いコートの1stと銀色の長髪をさらりと流しながら歩く英雄。

とりあえず無視するわけにもいかず、頭を下げて挨拶だけをする。

「おはようございます」

二人は無視していくかと思いきや、立ち止まった。
いや、そのまま行ってほしかった。

「新しい受付嬢だな」
「…」

昨日に続き、セフィロスの鋭い視線がまっすぐ見てくる。
その視線に耐えきれず、つい視線を逸らすために俯く。

「ジェネシス行くぞ」
「何だよセフィロス」

予想外の展開だ。
何かしら言ってくると思ってたけど、セフィロスはジェネシスを連れてさっさとエレベーターに乗り込んでいった。

気が付かなかったか、潜入調査と理解して立ち去ってくれたのかな。

そう思いながら時計を見ると、すでに出社時間を過ぎているはずなのに隣の受付嬢は来ない。
次々と出社する相手に挨拶をするが、人が途絶えると溜息が零れた。

この仕事は絶対に自分に合わない。
愛想笑いをしすぎて顔がおかしくなりそう。

名前はふと、携帯がメール受信したのに気が付きカウンターの下で開いてみる。

詰め物取れ。

…どこの?と返信しようとしてやめた。
そして、セフィロスはやっぱり気が付いていたのか。
メールを見なかったことにして、再び時計を見る。
するとヒールの音が響き、もう一人の受付嬢が姿を現した。

「あら、今日は新人とね」
「よろしくお願いします」

運が悪い。たった一日だけの任務なのに、相方はあのセフィロス大好き女だ。
名前は嫌悪感を出さないように冷静に微笑んだ。

「先輩、よろしくお願いします」
「ええ」

指定よりもだいぶ短いスカートは受付の椅子に座るとパンツが見えそうだ。
胸ははち切れんばかりで、詰め物をしている自分よりあり、自分が惨めに思えた。
香水の匂いが鼻を掠め、長い爪には色鮮やかなネイルがしてある。

本当につくづく自分と正反対だが、セフィロスはよくこの人を抱く気になったな。
そう思うと、今度はイライラしてきた。
いや、くだらない嫉妬だけども。

この人の胸を揉んで、スカートを捲り上げて…

頭を振って雑念を取り払うようにした。

「ねえ、今日はセフィロスさんエントランスきた?」
「あ、はい。30分ほど前に」
「ああー!もう!今日に限ってエントランス通るんだから!」
「…」

通らないことのが多い気がするけど。

「私ね、セフィロスさんに抱かれたことあるのよ」
「うわー羨ましいですー」

棒読みになってしまったが、女は気にしていない様子だった。

「もう最高の夜だったわ…そういえば、ここを金髪のソルジャーの女が通らなかった?」
「見てませんね」

目の前に居ますけどね。
と、心の中で笑いを堪えた。

「あの女が来てからセフィロスさんは全く相手にしてくれなくなったの、本当にうざい女」
「それはうざいですね」
「あら、貴女なかなか分かる子ね」
「だって好きな人を掻っ攫われたらいい気分はしませんよ」
「ふふふ、そうなの」

おめでたい頭ですこと。
毒づきながらも、表情は笑顔で前を見る。

「あんな女、顔だけよ。胸もなければ色気なんてサッパリだもの」
「あははははー」

乾いた笑いしか出来なかった。

「ソルジャー達の話しでは、セフィロスさんが遊んでるとか言ってたし。新しい玩具なだけよね」
「私もそう思います。セフィロスさんは面白がっているだけかと」
「そう思うでしょ?!今は楽しくてもきっとそろそろ飽きると思うのよ」
「私もそう思います。なので相手にするだけ無駄ですよ」
「この間、ちょっと痛みつけたら泣いて帰ってったわ。よわっちいくせにね」

それは真実を曲げすぎだ。
名前は笑いながら「そうですよねー」と返事をする。
しかし、これでもしかしたら当たりが少なくなるかもしれない。

「あー…今日はここに来てくれないのかしら」

いや、来られたら確実に困る。
本当に来ないでくれ。

「もうとにかく誰でもいいから玩具を変えてほしいのよね…一番嫌なのはあの人が一人に絞ることだから…」

この人はファンの一人なんだとしみじみ思った。
本命が現れると困るって…自分が本命になる気はないのか?

「まあ、本音を言えば私だけに絞ってほしいけど」

やっぱりかい。
心の中で突っ込みを入れると、時計はお昼を示していた。

「私、先にご飯行ってきていいですか?」
「ええ。貴女が先に出社したからしょうがないわね。パソコンで休憩中に切り替えて行ってきなさい」
「はい」

タークスやソルジャーと違い、サービス課はパソコンで勤務状態を管理しているようだった。
出社・休憩・退社をパソコン上で入力し、タイムカードとして使用している。

休憩中へ変更し、エレベーターを待つ。
そして、エレベーターの中に乗っている人物を見て昨日に引き続き立ち尽くしてしまう。

「さっさと乗れ」
「は、はい」

このやり取りも昨日と同じだ。
エレベーターに乗るとすぐに腕を引かれて胸を鷲掴みにされた。

「ぎゃあ!な、何を!」
「詰め過ぎだ。こんなもの必要ない」
「せ、セクハラです!やめて下さい!」

胸元から手が侵入してきて次々とパッドが抜き取られ、マテリアが光る。

「ああ!わざわざ燃やさなくても!」
「ふん」
「っ!やだ!ちょっと!もう詰め物ないって!」

再び胸に手を突っ込まれて、その腕を掴んで外そうとするがびくともしない。

「確認だ」
「はっ、やんっダメだって!」

後ろから抱き着くように密着しながら、片手で揉まれる。
頂をくりくりと刺激されると、甘い吐息が零れた。
誰か乗ってきたらどうするんだっ!
ヒールの踵でセフィロスの靴を踏みつけた。

「っ!」
「はあ、はあ、確認終わりです!」

セフィロスから離れて、ふとエレベーターのボタンを押していないことに気が付いた。
そしてタークス課のボタンを押そうとする手を掴まれた。

「あ、あの」
「痛かった」
「痛くしたんです!」
「責任とれ」
「意味分かんない!」

エレベーターがソルジャーフロアで止まると、名前は青ざめた。
ソルジャーが何人か乗ろうとして固まった。

受付嬢にセフィロスが背後から抱きしめている光景に茫然としたからだ。

「…違うエレベーターに乗れ」
「は、はい!」
「あ…」

ドアが閉まり、1stフロアに到着すると軽々と抱え込まれる。

「やだ!離して!」
「とんだじゃじゃ馬な受付嬢だな」
「絶対に嫌だから!離せってこの変態!」
「くくく、楽しみだ」

さっさとセフィロスの執務室に着くと、ソファの上に乱暴に下ろされる。

「私はこの恰好でしたくない」

本気のトーンでセフィロスを睨みつけた。

「受付嬢の女と一緒に話してたけど、あの人ともこうしてやったの?」
「は?」
「セフィロスが一度だけ抱いたっていう女!」

少し考えたセフィロスが苦々しい顔になった。

「…」
「絶対にこの恰好ではしません。犯したら二度とセフィロスの家に行かないんだから。合鍵も返す」

ふんだ。自分でまいた種なんだからね。
そう小さく言って、ソファに座りなおす。

「やる気は失せてくれましたか」
「…ああ」
「ならよろしい…キスだけなら許しましょう」

そう言ってセフィロスの唇に自分の唇重ねる。

「ね?」
「もう少し」
「ん、んっ、んん」

啄む様なキスから舌が侵入してきて、深いキスをされる。
いつもだったらソファに押し倒されているはずだが、本当にキスだけで済ましてくれそうだ。

「は、はぁ」
「…もう潜入調査はやめろ」
「え?」
「俺の身が持たない」

意味分からん。
名前は盛大に溜息をついて、ソファから立ち上がった。

「今日は家に行くから…」
「ああ。駐車場に来い」
「絶対にエントランスに来ないでね」
「分かっている」

あの女と顔を合わせさせたくない。
つまらない嫉妬はもうたくさんだ。

名前は執務室を後にして、嫌な受付嬢に適当な相槌をうちながら任務を終わらせた。
結果、受付嬢には絶対に異動したくないと思った。


  
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