意外なところで繋がったお前との共通点


「キャプテン!お久しぶりです!!」
「お疲れ様でっす!」
「シャチ、ペンギン」

名前には夕食デートを断られ、仕事終わりに帰ろうとして電話で呼び出された後輩2人。小さい時からの付き合いだが、大学入ってからと、研修医時代と大学病院に勤めているときには休みがほとんどなく忙しかったため全く会えなかった。この病院に勤めるようになってから、こうしてたまに飲みに行くことが増えた。
今日はおれの家の最寄駅に近い居酒屋で飲もうと、久しぶりに会うことになった。

「キャプテン、最近楽しそうですね」
「…まあ…そうだな」
「なんでですか?仕事でいいことでもありました?」
「いや、仕事…というより、面白い奴を見つけた」

注文した酒を飲みながら、名前のことを2人に話した。
話しを聞きながら2人は驚いたように顔を見合わせた。

「キャプテンに落ちない女って居るんですね…」
「おれだったらすぐに落ちるのに!もうほかにいっちゃおうとか思わないんすか?」
「思わねェから困ってる」

苦笑すれば、シャチがビールを飲み干して「羨ましいー!」と叫んでいる。
そんな声もガヤガヤしている店内の喧騒に紛れ込んでいく。
おれは枝豆をつまみながら、溜息をついた。

「3か月以内に振り返んなきゃ諦めることになるんだけどな」
「諦めるんすか?」
「いや。諦めらんねェんだろうが」

二度目の「羨ましいー!」というシャチの叫び声を頭を叩いて止めた。うるせェ。
不思議なことにあんな冷たい態度を取られようが、他の女に押し付けられようと諦めきれない。でも、あの食堂で他の女に押し付けられた時にはかなりキツかった。その後のエレベーターでの抱擁で心を癒したが…出来るならキスもしたかった。

口説くにもどう攻めていけば彼女はおれの方へ向いてくれるのかも検討もつかない。
女を落とそうと思って落としたことはないため、経験値も少ない。

「…お前らは女を落とすときどうしてる」
「おれだったら…」

ペンギンが少し考えるようにして言葉を詰まらせた。
そういえば、こいつ彼女居たことあるのか?シャチが彼女をつくってはフラれている話しをよく聞くが、ペンギンについてはあまり聞いたことがない。

「とにかく優しくしますね。レディーファースト。女性は女性扱いされるのにドキッとするみたいですから」
「…お前、いつもしてんのか」
「してますよ。さりげなく車道側を歩いたり、あんまり強引に迫ったりしないようにとか。デートも女性になるべく合わせますし」

すでに半ば強引に恋人になったり、キスをしまくってるな。
ダメだ。おれにはできねェ。合わせるよりおれに合わせろ派だ。だからなのか?そもそもアイツの好みがおれみたいな性格じゃねェのか?それは考えてなかった…。

「…シャチは」
「おれはですね…」
「こいつはフラれまくってるんであんまり参考になりませんよ」
「あー!なんつーこと言うんだペンギン!」
「こっぴどくフラれた看護学生の時の同級生の話しなんですけど」
「やめろよペンギン!おれの古傷を抉んないでくれっ!」

こいつらはおれの1つ下。違う病院で働いている看護師だ。
学生の時はお互いに勉強に忙しく会っていなかったが、看護学生の時に恋愛してたのかコイツ。余裕だな。

「めっちゃ美人でクラスでトップの成績の女の子だったんですけど」
「めちゃくちゃ美人っすよ。スタイルも良くて、勉強家で」
「それで」

シャチがいちいちペンギンの話しのいらん補足話しをしてくる。
口にから揚げを突っ込んで黙らせることにした。

「コイツの告白に彼女は、“シャチ、私はあなたのこと好きじゃない”って言われてですね」

まあ、その女の好みがそうだったんだろうな。
ペンギンは思い出し笑いをして、もぐもぐとから揚げを頬張っているシャチを見た。相変わらず間抜け面だ。

「こいつ全然諦めなくて、ある日言われたんですよ。“一つ提案があるんだけど”」

ピクッとおれの酒を飲む手が止まった。
待て。それはおれも聞いたことがある断れ方だ。
ペンギンは続きを笑いながら話した。

「“同じクラスで気まずくなりたくない。この告白をなかったことにしよう。シャチのことは全く好きではないし好きになる気配もないから”って!告白をなかったことになんて出来ませんよねー!しかも、全く好きではないって…キャプテン?」

そのクソみてェな提案といい、美人で頭がいい。勉強家でこいつらはおれの一つ下。

「…そいつの名前ってもしかして苗字・名前じゃねェよな」
「ええ?!キャプテン名前を知ってるんすかー?!」
「ま、まさかキャプテンの言っていた落ちない女って…」

ペンギンの言葉に頷くと2人して「ええ?!」と声を揃えて驚愕の声を上げた。
おれも驚いてる。まさかこんなところであいつとの繋がりを見つけるとは。
世間は意外にも狭いらしい。
つか、あいつ昔っから変わってねェのかよ。あのクソみたいな提案を出すところ。

おれはすぐに携帯を取り出した。

「ペンギン、シャチよりは名前と仲良かったんだろ?」
「まあ。実習のグループもよく一緒になってましたし、彼女の次におれが成績良かったんで」
「電話するから呼び出せ。おれが呼んでも来ねェから」
「アイアイ、キャプテン」

お気に入り登録をしているからすぐに番号が出てきてかけた。
だいぶ鳴らしてから漸く『もしもし』と嫌そうな声が聞こえてきて、思わずため息が出そうになった。

「何してる」

『テレビ見てます』

「くく、暇そうじゃねェか」

『話し聞いてました?テレビを見て忙しいのです』

「忙しいっていわねェよ。お前、看護学生の時の同級生でペンギンって奴覚えてるか」

『ペンギン君?そりゃ覚えてますよ。実習で結構一緒のグループになることが多かったので。ってなぜ先生がペンギン君のことを…』

「ペンギンに代わる」

『ええ?!』

おれの声に慌てたような名前の声が聞こえてきて、思わず笑った。彼女が慌てるのも珍しい。
携帯をペンギンに渡すと、ペンギンは口角を上げておれを見て頷いた。
ちなみにシャチは古傷を抉られて、泣きながら酒を飲みまくっている。

「久しぶり。…あー、そうだな。きゃぷ…ローさんは幼馴染みたいなもんでね。それより今から東駅前のしょーやって店に来れないか?」

こちらから名前の声は聞こえないが、会話が弾んでいるように聞こえてくる。

「おれらも明日日勤だし、ローさんだって出勤。来なくてもいいけど、お前の学生の頃の写真やら思い出話をローさんに話して…よし、それでいい。じゃあ、なんかあったらローさんに電話して。またあとで」

携帯を差し出してきたペンギンが笑って「すぐに来るそうです」と言った。
おれの誘いは断ったくせに…まあ、来てくれるのならいい。

「あ、キャプテン。名前を家に泊めたことあります?」
「ねェに決まってんだろ。数日前にやっと連絡先を手に入れたばかりだ」
「ええ?!キャプテンって今の病院きてもう半年近いですよね?!」
「悪ィか。半年かかってやっと連絡先と期間つきの付き合いまでこぎつけたんだよ」
「はー…まあ、変わってる女とは思ってましたが…ならおれらも協力しますよ」

ペンギンの言葉にシャチがガバッと顔を上げた。

「いいっすね!キャプテンに翻弄されるところを見れたらおれの傷も癒える!!」
「今のところ翻弄されてんのはこっちだが」
「淡泊っぽいとは思ってましたがここまでとは思いませんでした。まあ、それも今日までですよ」

ペンギンとシャチがニヤッと笑い、おれも口角を上げた。
この2人はかなり強い味方になる。現に今日だって呼び出すことに成功させたのだから。
シャチは携帯を取り出し、おれの方にアルバムを見せてきた。

「とりあえず、学生時代のアイツの写真見ます?」
「見る」

とりあえず待っている間におれの知らないアイツの姿を堪能することにした。
写真を見てみて、無邪気に同級生と笑うアイツの表情に緩みそうになる口元を片手で隠した。

やべェ。なんだこの顔、めちゃくちゃ可愛いじゃねェか。

「…キャプテン、すごい惚れこんでますね…」
「自分でも驚くぐらいだからな」
「学祭の時なんてナース喫茶して、これスカートのナース服のアイツっすよ」

シャチが写真をスライドして見せてきた写真を見て、可愛さとともに嫉妬も渦巻いた。この恰好をコイツらは見てたんだし、同級生どころか他の来客にも…つか、学生の時に誘われた学祭に行けばよかった…。行ったところで落とせるかは微妙な線だが…。







「わあ!本当にペンギン君!!…と…シャチまで居たんだ。あ、先生お疲れ様です」

ペンギンに笑顔、シャチに嫌そうな顔、おれには無表情。よくそんな顔に好感度を表せられるなと感心までしそうになる。
おれの隣に座り、酒を注文した名前は嬉しそうにペンギンに話しかけた。
おいおい…おれにもそんな嬉しそうに話したことなかっただろ。もしかして、ペンギンのことが好きなのか?それとも自分に好意を示してくる奴のことが嫌いなのか?

「お前さ、ローさんの何がダメなんだよ」
「医者だから?」
「何で疑問形なんだよ。しかも、偏見だろ。医者じゃなくてローさん自身を見たことあるのか?大体、お前も看護師だから献身的で尽くしてくれそうとか言われて付き合うの嫌だろ?」
「…いやだ…」
「なら、ローさんのことも医者じゃなくてローさんという男を見てみろよ」

ペンギンの言葉に名前がハッとした顔をして気まずそうにこっちを見てきた。

「すいません…」
「実習の時もそうだけど、先入観強いって言われてただろ」
「うっ…やめてよ…看護学生の時の話は」

思わぬ弱点だな。コイツのイイとこばっか目に入ってそういうとこは気が付かなかった。いや、言われてみりゃそうだな。
思わぬ強力な助っ人におれは内心ホッとした。
やっと進んだと思った距離が今日の昼間に打ち砕かれたのだからな。

おれは視線を感じて隣をみると、名前が思いっきり目を反らせて、その頬は見たこともない程紅くなっている。

嘘だろ。あんだけ口説いてて、ペンギンに指摘されただけでこんな意識されんのかよ。
おれがテーブルの下で手を握ると、いきなり立ち上がり「トイレへ…」と逃げるように立ち去った。

「キャプテン。キャプテンが思ってるより案外、単純な奴ですよ」
「ああ。そうだな…ペンギンありがとな。助かった」
「おれもキャプテンにお礼言われてー!!」
「シャチも見事な踏み台ありがとな」
「踏み台っ!!!」






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