65 「まずは、場所を移すとしようかのぅ。ここではゆっくり寛げまい。ハリー、おぬしには休息が必要じゃ」 ダンブルドア先生はそう言うと、今まで私達が苦労して通ってきた道を逆向きに辿っていく。行きは随分苦労したにも関わらず、帰りはあっという間だった。ダンブルドア先生が魔法でアシストしてくれたというのもあるが、距離にすると存外と呆気ない道のりだったのかと思っているうちに、全てが始まった三頭犬の部屋までやってきた。音楽の流れる部屋でゆったり休んでいる三頭犬の横を通り過ぎ連れられてこられたのは校長室だ。紅茶とお菓子を私に薦めてからダンブルドア先生は口を開く。 「さて、おぬしの質問に答える前に、少々昔話をするとしよう。――おぬしが生まれる、ちょいと前の話じゃ。世界中に、伝染病が流行った。その伝染病にかかった者は、残念ながら助かることはない。ハリー、おぬしを除いてな。――そう、表向きは、そうされている。だが真実は違う」 ゆったりとソファーに腰掛けているダンブルドア先生は膝の上で組んでいる指を組み直した。 「さらに、話は遡ることになる。そう、あれは全てが大人の責任じゃ。――愛を知ることなく育ってしまった、子供がおった。全ての原因は、そこにある。その子――トムに、特別な才能があったことがまた、不幸の始まりじゃ。 トムは、間違った力の使い方を覚えていった。自分と自分の母親を捨てた父親がマグルだったということから、マグルにたいして強い偏見を持って」 ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てる。その物語を私は知っている気がする。しかし、続けられる言葉を聞いてさらに頭は混乱した。 「どんどん黒い闇に体を沈めるトムを、一人の少女が救った。彼女にそんなつもりがあったのかは分からんが、彼女のおかげで全ては良い方向に向かったんじゃ。トムに愛を教えた少女、彼女がいなければ世界は闇に包まれていたかもしれん」 懐かしそうに目を細めたダンブルドア先生だが、顔を険しくして言葉を続ける。 「トムは少女を愛して変わった。それは間違いない事だが、それまでの全てがなかったことにはならなかった。そう、それは、トムがそれまで培ってきた闇が暴走するまでの束の間の安息だったのじゃ」 「闇……」 「暴走した闇はまず、トムの心を乗っ取ろうとした。しかし、少女への愛で満たされた心は見事それを弾き返した。そこで闇は考え、トムから分離し、抜け出すことに成功した」 ふぅ、と言葉をきったダンブルドア先生がもう一度紅茶を薦めてくるので、ひとまず今の言葉を整理しようとカップに口を付けた。 190512 次のページを開く→ 目次/しおりを挟む [top] |