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 カップに注がれてからそれなりに時間が経っているはずなのに、まるで今入れたばかりですというように紅茶は熱かった。ふぅふぅ息を吹きかけながら飲んでいると、これもお食べとお菓子が山ほど入った籠を押してくる。
 お礼を言って、手前にある丸い形をしたお菓子を摘んで口に放り込むと、口に入れた途端じゅわっと消えた。不思議な感覚に興奮はしたけれど味の薄さがなんだか物足りなくて、今度は四角い黒と白のお菓子を口へ入れる。シロップのような甘さが口いっぱいに広がり、思わず目がトロンとなった。そんな私を見て口元を緩ませたダンブルドア先生は、落ち着いた声音で話し出す。

「さて、どこまで話たかのぅ……そうそう、トムから闇が逃げ出した所じゃ。
トムから抜け出した闇は、人間に取り付いて精気を根こそぎ奪い取った。人間は精気がなければ生きていけない。特に幼い子の精気の方が好ましかったらしく……小さい赤子が、多く命を落とした。――伝染病の正体とは、トムの心の闇なんじゃ」

 ダンブルドア先生の言葉に耳を傾けながら次々とお菓子を口に放り込んでいく。お菓子の味なんてサッパリわからないほど頭はぐちゃぐちゃだが、なにかしていないと落ち着かなくてまたお菓子を口に放る。いくら噛んでも咀嚼音が出ないお菓子を次々と消費した。

「ようやく、おぬしの質問に一つ答えることができる。クィレル先生の頭に取り付いていたのは、トムの心の闇じゃ」

 そう言い終わってからダンブルドア先生もお菓子を一つ口に放った。

「今日は、ここまでにしよう。続きはまた今度、ゆっくりと」

 にっこりと微笑んでみせたダンブルドア先生は、残りのお菓子を私に持たせる。あれだけ消費したというのにかなりの量のお菓子を腕に抱えた。まだ聞きたいことがあったような気もするけれど頭がパンク寸前の私は大人しく部屋を後にする。校長室を出るとハーマイオニーとロンが駆け寄ってきて、頭の天辺から足の先まで怪我がないかを確認してからハグをした。彼らの無事をこの目で見て今度こそ本当に安心することはできたが、私達の再会を見届けている人物に気が付き体が強ばる。
 ダンブルドア先生が“トム”というどこにでもあるありきたりな名前だけを私に教えたのには理由があるのだろうか。私に、トムとリドル先生がイコールで繋がらないように配慮したのだろうか? 頭がごちゃごちゃしている私は深く考えることなく「リドル先生!」と彼の名を口にしていた。

190721

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