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 私は、ハリー・ポッターとなった。いつからなんてわからない。けれど、気付いた時にはハリー・ポッターになっていたのだ。

 私はハリー・ポッターではなかった。私にはヘンリーという名前がある。父も母も純日本人で、黒髪黒目の平凡なアジア顔。それが、私だ。ハリー・ポッターに縁などない。しかし、ハリー・ポッターは知っていた。世界的有名な児童小説の、主人公。それがハリー・ポッター。私は、ハリー・ポッターが主人公の小説の一読者で、それ以上でもそれ以下でもない。それなのに、なぜ、なぜ私はこんなことになっているのかしら。
 私がヘンリーであった時の最後の記憶は、覚えていない。だって、それだけ、なんてことのない日だったから。いつも通り過ごして、いつも通りに眠りに就いた。それなのに目が覚めたら階段下の物置にいたのだ。始めはとても驚いた。なにせ真っ暗闇だったのだから。その時は電気の点け方も、建て付けの悪いドアの開け方も知らなくて、恐怖のあまり寿命が五年は縮んだに違いない。しかし今では慣れっこで、ダドリーが階段の上をドタドタ暴れる頃合いすらわかる。随分この家に馴染んだものだ。ダドリーの玩具にされたせいでボロボロになった眼鏡を手探り、ベッドから体を起こす。セロハンテープで補強した眼鏡はかけ心地が最悪だ。

「ハリー、ハリー!」

 強く扉を叩くものだから、扉を押さえつけている金具が軋む。この階段下の物置についている鍵はとても簡易なもので、ダドリーの馬鹿力に敵うわけがない。破壊される前にと手早く鍵を解くと、待っていましたと言わんばかりの勢いで扉が開いた。もう少し遅かったら今日こそ鍵は壊れていただろう。
 小太りのダドリーは、私の倍はあるむっちりした指で部屋の電気を点けた。チカチカと不愉快な点滅をしてから私を照らし出す電球。眩しさに目を細める私なんてお構い無しで、ダドリーは階段下の物置から私を引っ張り出す。腕に食い込むダドリーの指が血管を圧迫してくるが、抗議をしても無駄だということは何年も前からわかっている。そうして抵抗をせずに連行された先には、山のようなプレゼントが積まれていた。そこでようやく、思い出す。今日はダドリー・ダーズリーの誕生日だ。
 ここで弁明しておくが、私はダドリーの誕生日を忘れたわけではない。寝起きにぐいぐいこられたせいで頭から飛んでいただけで、そう、忘れていないという証拠に、誕生日プレゼントを用意してある。

150615

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