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 オリバンダーの店を出てからずっと、ハグリッドはお喋りな口にチャックをしていた。本音を言えば、のろいだかまじないだかよくわからない傷に興味はないのだが、ハグリッドが話したがらない傷には興味があった。長期戦になるのを覚悟してハグリッドに額の傷のことを尋ねると、意外にもすんなり彼は折れた。しかし喋りたくないというのに変わりはないのかむっつりした顔をしている。そんな顔をしても私はちっとも堪えないが。

「なにから話せばいいんだか……そうだな、ごほん。じゃあまず始めに言っておくが、これを聞いたことで自分を責めるんじゃあないぞ。それだけは、約束してくれ」

 いつもは快活に喋るハグリッドが、モゴモゴと口を動かす。そして始めに教えたのは、私が幼い頃に流行った伝染病についてだ。致死率百パーセントという悪魔のような伝染病が魔法界で流行り、乳飲み子が特に感染することが多かったという。さらにハグリッドはモゴモゴ続けた。それは、私がその伝染病にかかったという事実だ。そこからハグリッドは嗚咽混じりに話したので理解しにくかったが、要約するとこうだ。伝染病を治すために両親は全力を尽くし、当時、唯一の治療法と言われている魔法を試した。しかし治療法と言っても、それは机上の論理であり、つまり、とてもじゃないが実用できない治療法であった。そんな治療を手伝ってくれたのが“兄弟杖を持つ人”である。結果的に、その治療は成功したものの、そのせいで両親は命を落とした、とハグリッドは震える声で告げた。

「あの治療法で多くの人が命を落とした。それも、治療に成功せんでな。しかしお前さんは、奇跡的に治療が成功した! 唯一の成功者だ! だからみんなお前さんを“生き残った女の子”っちゅうわけだ」

 ハグリッドは懐から取り出した大きな手拭い程の白いガーゼハンカチで、ブビーッと鼻をかんだ。当時のことを思い出して感極まったらしい。それからおいおいと泣き始めたハグリッドの大きすぎる背中をさすり、頭の中でハグリッドの言葉を整理した。……伝染病ってなんぞや、ハリー・ポッターでそんなもの出てきたかしら。私の知っているハリー・ポッターでは……と考えようとして頭を振る。考えても仕方がない、なるようにしかならないもの。ここはハリー・ポッターの小説であってハリー・ポッターの小説でないのだから。それからハグリッドが泣き止むまで静かに見守っていたのだが、私をぬいぐるみと勘違いしたのか思い切り抱擁をしてきたハグリッドのせいで人生初の泡を吹く体験をした。

150717

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