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 キングス・クロス駅のホームで、荷物カートを押していた。荷物カートの上には籠に入ったマシュマロも乗っているので横転することがあってはならない。そんな私の葛藤を知るはずもないマシュマロは籠の中で暢気に欠伸をしている。
 慎重に九番線と十番線のホームにたどり着いた私は、ハグリッドから貰った切符に書いてある九と四分の三番線の場所を探す。確か、まともじゃない場所に入口はあったはずだ。九と四分の三番線なんてまともじゃない場所だもの。ハリー・ポッターはどうやって九と四分の三番線を見付けたのかしらと記憶を探っていると“マグル”という単語が耳に飛び込んでくる。マグルとは魔法族ではない人間を示していて、魔法族しか知ることのない単語だ。きっと彼らなら九と四分の三番線の場所も知っているはずだと決め付けて止まっていた荷物カートを押して彼らに近付く。

「パーシー。まずは貴方から行きなさい」

 ふくよかな女性が息子らしき青年にそう言うと、私と同じような荷物カートを押している青年は一直線にホームの壁へダイブした。壁にぶつかったら弾かれるのが普通だが、青年は壁に吸い込まれていく。まるで魔法みたいだ、と思ったが、まるでじゃなくて正真正銘の魔法なんだろう。おじさんがここにいたら気がおかしくなるだろう、まともじゃないのがまともなのだから。
 ふくよかな女性はまた言う、次は貴方が行きなさい。先程壁の中へ消えていった青年と似ている容姿をした双子もまた壁の中へ吸い込まれた。また女性は言う、次は貴方が行きなさい。青年や双子と同じように燃えるような赤毛の少年はぎこちなく頷いて壁へ向かっていくも壁にぶつかる直前になって振り返る。

「大丈夫よ、坊や。怖いなら目を瞑りなさい」

 女性は出来る限り優しく言う。少年はその優しい声に安心したのか今度は止まることなく壁の中に消えていった。それを見届けた女性は、最後に残った一番幼い赤毛の女の子の手を引きながら壁へ向かう。青年と双子に少年、それから女の子……五人兄弟? 子沢山な家族だな、とかそんなことをぼんやりと考えながら、私もまた壁の中に吸収された。壁にぶつかる瞬間背中がひんやりしたが、なんの抵抗もなく九と四分の三番線に立っていて、もちろんマシュマロも無事だ。
 出発時間までの時間が迫っているので無事を喜ぶ前に足を動かす。山盛りの荷物を列車に乗せるのはかなり大変であったが親切な双子の片割れが協力してくれたため乗り遅れることはなかった。ジョージ・ウィーズリーによくお礼をしてから、空いているコンパートメントを探す旅に出る。

150718

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