05

 一つ年上のルシウスが卒業してしまい、日常から色があせた。そんな私に彩りを与えてくれたのはジェームズで、彼の傍にいると胸が温かい。ルシウスが卒業してもジェームズと別れようなどと微塵も思わないのは、彼に絆されてしまったからだろうか。中庭の木に背を預けている私の膝に頭を乗せるジェームズの髪をくしゃりと撫で、寝転ぶために眼鏡の外された顔を見つめる。瞼を閉じて寝息をたてるジェームズはとても無防備で、くすぐるように頬を撫でると身をよじった。

「これが恋、なのかしら」

 ジェームズが笑うと嬉しくて、ジェームズがいると安らぎ、ジェームズに触れると鼓動が高鳴り、ジェームズが異性といると胸がざわめく。私がそれを恋だと気づくのに時間がかかったのは、この気持ちを前にも感じたことがあったからだ。
 私は、ジェームズに恋をして初めてルシウスを好きだったことを知った。幼稚だった私はそれが恋だということに気づくことなく――否、もしかしたら気づいていたのかもしれない。彼が私を見てくれていないとわかり、傷つくのを恐れて恋心を隠していたのだろう。

「こんな年下の子に気づかされるなんてね」

 まだ私よりも背の低いジェームズを見てクスクス笑い、彼の肩を揺する。もうすぐお昼よ、と声をかけた。渋々ながら目を開けたジェームズが寝不足なのは、昨夜遅くまで起きて悪戯グッズを開発していたせいだとか。先生にあまり迷惑をかけたら駄目よ、と口でしか注意をしない私は監督生として失格だろう。
 眼鏡をかけたジェームズに手を引かれてやってきたのは食事をするための大広間で、いつものようにスリザリンの席に足を向けようとする私の手を引きジェームズはグリフィンドールの席へ向かっていく。グリフィンドールのテーブルで食事をするのが嫌なわけではないけれど、グリフィンドールの席に来るのは初めてで、戸惑いながらジェームズに視線を送る。

「たまには、いいだろ?」
「ええ、まあ……」
「ほら、座って。なにが食べたい?」

 皿を片手に尋ねてくるジェームズにチキンを頼もうとしたとき、視界に赤がちらついた。緑色の瞳が私をしっかりとらえていて、思わず顔を逸らそうとすると手を握り締められる。

「あの、ヘンリー・ブラックさんですか?」
「ええ……あの、なにか?」
「私、リリー・エバンズっていいます」

 そう言って緩く笑った彼女は、ポケットから薄いブルーのハンカチを取り出した。そのハンカチには見覚えがあり、けれどリリーはこの持ち主が私だということは知らないはずで――もしかしてジェームズがなにか余計なことを言ったのだろうかと視線を移すと、ジェームズはニヤリと悪戯に笑う。
 余計なことをして、とジェームズを睨んでも彼はニコニコ笑うだけで、仕方なくリリーに視線を戻しハンカチを受け取る。私がハンカチを受け取ったことにひどく安堵した顔をしたリリーは、返すのが遅くなったことを詫びてから丁寧にお礼を言った。

「医務室まで運んでくださったのはブラック先輩なんですね。ずっと、お礼が言いたかったんです。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あ、あの、一緒に食事をしても?」

 リリーの問いかけを断る理由はないので首を縦に振りながらジェームズの隣に座ると、ジェームズとは反対隣の椅子にリリーは腰を下ろした。まだ頼んでいないのに私の好みの料理が乗った皿を差し出すジェームズにお礼を言いフォークで肉を切り分けていると、ジェームズが自慢げな声を出す。

「だからヘンリーだって言ったろう」
「ええ、そのことは感謝しているけれど、そのドヤ顔やめてちょうだい」
「……君は本当に口が悪いね」

 私を挟んで言い合いを始めた二人はあまり仲が良くないらしくその後もなにかしら衝突し合い、あまりにもうるさいので注意をすると口を閉じて睨み合いを始める。そんな二人を呆れた気持ちで見ていたのだが、リリーの頬が薄く色づいているのに気づき嫌な予感を覚えた。

150524
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