02

 ――近頃ルシウスの様子がおかしい。突然溜息を吐いたかと思えば綺麗に整えた髪を掻き乱し、心ここにあらずといった様子で一点を見つめるルシウスはまるで恋する乙女のよう。ある時、彼の視線の先をたどった私は息の詰まる思いをした。まず目に入ったのはパッチリとしたグリーンアイで、艶やかな赤い髪は重力に従い真っ直ぐに伸び、背伸びをするかのように胸を張っている少女は赤と金のネクタイを身につけている。
 息が詰まったのは、決してルシウスを愛しているからではないと弁明しておこう。そりゃあルシウスのことは好きだし、結婚も誓っているが、そこに特別な感情はなく、レールの上を歩くかのようにそれは決まりきったことだった。
 ではなぜ、と聞かれれば、ルシウスを哀れに思ったのだ。グリフィンドールとスリザリンは水と油であり、仲良くなることは有り得ない。万が一付き合えたとしても、その先の運命なんて決まっている。

「(馬鹿な男)」

 フッと鼻で笑い、悩ましげに眉を寄せるルシウスを見下した。
 それから数日も経たない日のことだった、彼女と対面したのは。赤毛の少女を五人で見下ろしているのはいつも私を取り巻いている男女で、なにやら揉めているようだ。聞き耳を立てると、どうやら少女の肩が彼らの誰かにぶつかり、グリフィンドール生、それに付け加え、マグル生まれということが災いしいわれのない文句まで言われているようだ。
 少女と親しくない私が彼女を助けるわけなどなく、面倒に巻き込まれる前に踵を返す。足音をたてないよう気をつけながら立ち去ろうとしたとき――頭をよぎったのは切なげに目を伏せるルシウスの横顔だった。
 気づけばくだらないいざこざの中心に私は立っていて、少女を背にしている。

「低レベルなことはおよしなさい。スリザリンの品格にかかわるわ」

 パチンと手を叩くと五人は顔を見合わせてから頷き合い、私に挨拶をしてから去っていく。ブラック家の機嫌を損ねることを恐れたのだろう。彼らに軽く手を振ってから体を反転させて少女の顔を覗き込むと、彼女の綺麗な瞳には溢れんばかりの涙が溜まっていた。泣きたくなる気持ちもわからなくはないが、唇を引き締めながら嗚咽をこらえている彼女をどうするべきか。

「女の子は、泣きたいときは素直に泣くのが可愛いのよ」

 ポケットから取り出した淡いブルーのハンカチを少女に渡すと、それを目に当てる間もなく彼女は大粒の涙を流し始めた。怖かった……! という彼女の頭を撫でてやりながら、彼女の手の中で握り締められているだけのハンカチを拝借し頬を伝うそれを拭いてやる。
 ずずっと鼻をすする少女の鼻にティッシュをあててやりながらなぜ私はこんなにこの子の面倒をみているのだろうと疑問に思う。……まあ、たまにはこういうのもいいかしら。

「目が赤いわね」

 魔法でハンカチを綺麗にしてからもう一度杖を振ってハンカチを冷たく湿らす。それを少女の目元にあててやりながら今日のことは忘れなさい、とさらにもう一度杖を振って彼女の一部の記憶を消し去った。気を失った彼女を抱き上げ、誰にもすれ違わないよう気をつけながら医務室までの道のりを歩く。重力をなくす呪文をかけた少女は女の私でも容易に運ぶことができ、校医に適当な説明をしてから彼女に私のことは言わないでくれと頼んで寮へと帰った。

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