01

 彼と出会ったのは突然だった。
 雲一つない晴れやかな休日を堪能しようと愛猫であるジュリアと中庭を散歩していると、低学年であろう少年と出会った。くしゃくしゃな髪の彼は箒を両手に持ち、楽しそうに笑っている。箒が嫌いな私はその光景に眉を寄せ、地面を蹴って飛び上がった少年を視界から外す。せっかくいい気分だったのに台無しだ、とジュリアを抱き上げ足を動かそうとしたとき――顔を庇う余裕もないほど速く、箒に乗った少年が突っ込んできた。
 痛いと思うより前に怒りがわいてきて、私に馬乗りになっている彼の頬を引っ叩く。驚いたように目を丸くする少年をもう一度はたいてから彼の体を思い切り突き飛ばし、お尻についた汚れを払いながらジュリアの顔を覗き込んだ。

「ジュリア、大丈夫?」

 にー、と鳴くジュリアに怪我はないようで安堵しながら頭を撫でるとジュリアは私の腕から抜け出し、地面に前足から着地する。ジュリアの気紛れな行動は珍しいことではないが、私たちにぶつかってきた男の頬を舐めるジュリアに顔が引きつった。
 一瞬目を丸くしてからジュリアの体を抱き上げた少年は「ごめんよ」と言ってジュリアの頭を撫で、それから私に視線を移し「ごめん」と頭を下げるものだから調子を崩してしまい、仕方ないわね、今度から気をつけるのよ。面倒というのもあいまって、そう言って許すと彼は迷うように視線を彷徨わせ、ゆっくりと口を開く。

「ありがとう。……僕はジェームズ。ジェームズ・ポッター。君は?」
「ヘンリー・ブラックよ。……あなた、どこかで見た顔だと思ったら、いつもシリウスと一緒にいる子ね」
「シリウスの知り合いかい? そういえば、ファミリーネームもシリウスと一緒だね」
「ええ。彼とは、いとこなの」
「へえ……ヘンリーはどこの寮?」

 ジェームズの問いかけは無意味なものだった。今日は休日なので制服は着ておらず、見た目だけでどの寮に所属しているのかを判断するのは難しいかもしれないが、ブラック家がどの寮に所属しているのかなんて決まっている。例外なんてシリウスくらいだ。
 スリザリン、と迷いなく答えるとポッターはその答えを知っていたかのように頷いて、自分はグリフィンドールなのだとのたまう。次いで差し出された手を握り締めることはしなかったが「よろしく」という言葉に頷くとポッターは素晴らしいものを見つけたというように目を輝かせる。

「ヘンリーって面白いね!」

 私のどこをどう見てそう言ったのかはわからないが、それを褒め言葉として受け取ることなんてできず顔をしかめる。そんなあからさまな態度をとる私をものともせずにジェームズは楽しそうに言葉を重ねていく。
 どうせくだらないことだろうとジェームズの言葉に耳を傾けることなく、腕の中に戻ってきたジュリアの首を掻いていたのだが、不意に出された話題に思わず食いついてしまった。

「ヘンリー、この間リリーのことを助けてたろ?」
「り、リリー? さあ、誰だか知らないわ。人違いじゃないかしら」

 不自然に声が裏返ってしまい、念を押すようにもう一度同じ言葉を繰り返す。リリーなど知らないと。挙動が不審になった私を見て何度か目を瞬いたポッターだが素直に首を縦に動かしたので、ホッと息を吐く。
 きちんと彼女には口止めをしておいたはずなのになぜポッターが知っているのだと片眉を動かしながら、半月ほど前の出来事を思い返した。

150507
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